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雪虫4 26
「そ、そんなに酷いことされたんかよ?」
「…………私は、雪虫と同じなの」
「へ⁉」
思わずぴっと背筋が伸びたのは番の名前が出たからだ。
なに⁉
なに……?
……雪虫を誘拐した奴を、うたは知ってるのか?
「じゃ、じゃあお前も、誘拐されてたってことか?」
「うん……」
「そ……そこはっどんなとこだったんだ⁉ ってか、覚えてること教えてくれ!」
食らいつくようにして肩を掴むと、雪虫に似た華奢な骨のあたる感触がして「いたっ」って小さな悲鳴が上がった。
いつもつるんでいるのはセキで、幾らΩで華奢な体をしているとは言ってもあいつは男だった。その勢いで手を伸ばせば、女のうたには乱暴すぎるんだって……今、気づいた。
「ご、ごめ っわざとじゃなくてっ……セキにするように掴んだから……」
「っ……もう! こっちは女の子なんだよ⁉ ……せめて、雪虫に触れるくらいじゃないと」
痛いのか肩を擦るそぶりを見せるうたに申し訳なくなってうなだれる。
「あ、じゃ、あの、……もう触んないようにするから」
「ばっ……そ、そんな話してるんじゃないわよ」
むっとした口調で怒鳴り返されて……正直、女は面倒くさい。
「そんなことより、雪虫と同じ被害者だって言うんなら詳しく話して欲しい! 手掛かりになりそうなこととか、何で集められてたのか とか。食堂でお茶おごるから!」
「……食堂なの?」
「遠出できないから。もう少ししたら雪虫が起きるはずだし」
「…………」
もご と何かを言った気配だけがした。
実際には言葉は口から洩れていないために、何を言ったのかオレにはわからなかったのだけれど……
話をするのに食堂はちょっと……と言われて、後ろについて歩いていく。
確かに、食堂は雑談になら向いてはいたけれど、周りに聞かれたくない話をするには不向きの場所だった、それに若葉もいるだろうから……また絡まれても面倒くさい。
「なぁ、どこ行くんだ?」
こっちには雪虫の部屋があるが、それは同時にΩ達の多い区画でもあるからオレは深く立ち入ることができない場所でもある。
「もう着くわ」
なんの飾り気もない部屋の扉は他の扉との違いを見つけるのが困難だと言うのに、うたは迷うことなく一つの扉を開けて入って行ってしまった。
何も考えずに一歩踏み出して……一歩下がる。
『……』の間に、ここがうたの自室なんだって気づけたオレ、えらい!
「あれ? 入らないの?」
「っ……だって、ここお前の部屋だろ?」
「ええ」
「ええじゃねぇよっ男を密室に連れ込むなよ! ましてやお前はオメガでオレはアルファなんだぞ⁉」
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