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雪虫4 27
はっきりとそう言ってやると、こちらを振り返ったうたは意外そうな顔をした。
「でも抑制剤飲んでるでしょ?」
「そうだけどっ自衛もしろって言ってんだ! 第一! ネックガードもつけてないってどういうことだ!」
ひとしきり叫んではぁはぁと肩で息をしていると、さっとうたの手が伸びて胸倉を掴み、悲鳴を上げる間もなくオレを部屋へと引きずり込んでしまう。
細いと見えてなかなかの力強さを見せる腕に逆らうことができず、よたよたよた とひよこのように進んでばたんと倒れこんでしまった。
「ぃったー!」
「痛いはこっちのセリフよ! 信じられない!」
うたの声が下から響いて……オレはしたたかに打った膝の痛みに耐えながら、慌てて体を起こした。
ちょうどうたをクッションにするように倒れこんでいたらしく、床にぺたんと尻もちをついたうたが涙目でこちらを見上げている。
「なんでこんな乱暴なことするの⁉」
「乱暴したのはお前だけどな」
「何か言った⁉」
「なんでもない」
そう言って、うたの長いスカートから手を下ろす。
いつもこいつが着ている服はひらひらって言うかきらきらっているか、フリル? とか多くて動きにくそうでなんだかなーって思う。
────ビッ
さっと立ち上がろうとした時に聞こえてきた音に、さっと血の気が引いた。
気のせいだと思いたかったけど、でもでも絶対に聞こえた!
オレのつま先の方で聞こえたそれに恐る恐る視線を動かしていくと、靴の先がうたのワンピースの裾を踏んずけていて……しかもその状態のまま動いたからか、スカート部分につけられたレース? フリル? みたいなものがびぃって硬い音を立てて破けるところだった。
「 ────っ!」
血の気が下がるとはこのことで、カエルのように飛び跳ねてその場から退くとその勢いのままに土下座で頭を下げる。
「わぁぁぁ! ごめんっわざとじゃなくてっ わざとじゃないからっ……」
叫んだオレに、うたの反応はない。
そろりと土下座体勢からちらりと様子を窺ってみれば……
「……」
なんとも言えない表情でスカートから離れてしまったレース? フリル? を見つめて、手を伸ばそうかどうしようかを迷っているような素振りをしていた。
泣きそう……ではない?
「あ、あー……ほら、今度、同じのって言うか似たようなの買いに行こう! もちろんオレがお金出すし!」
「……」
びっくりしているような……放心しているような?
これはどういった感情だと受け止めればいいんだろうか?
せめて泣いて責めてくれたりしたらいいんだけど、それすらないって言うのはなんだかちょっと……失礼な言い方すると、嵐の前の静けさのようでぞわぞわとしたものを感じてしまう。
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