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雪虫4 29

 いつもおしゃれなワンピースを着て、必要なら服によく似合う日傘を持っていたりもするのを見かけているだけに、このこだわりのない、一切主張のない部屋を見て立ちすくんでしまった。 「他に椅子もクッションもないから、ごめんね」  そう言うと簡易キッチンで沸かしたお茶を入れたカップを持ってくる。  一つだけ目の前に置かれたそれはオレンジ色の花柄のマグカップで、日常使いしている雰囲気がするものだ。 「え……お前の分は?」 「のど乾いてないから」    さらりと言って戸惑うオレをベッドに座らせて、その向かいの簡易椅子に腰を下ろしてくる。  なんとなく見たキッチンには皿一枚しかなく、カップがこれだけだったから一人分しかお茶を入れることができなかったんだと思った。  気遣いなのはわかるけれど、自分一人だけ口をつけるわけにもいかなくて、なんとなくカップに手を伸ばさないままに「それで?」と話を切り出す。 「コレ」  うたの言葉は単純だった。  その代わりに手がぷつぷつとワンピースのボタンをはずしていき…… 「わっっわっわわわわわっ! 何っ! 何してんだよ! オレには雪虫がいてッ」 「うるさいわよ! ……見せたくて、見せるわけじゃないんだから」  ぎろりと睨まれてしまうと言い返すことも反抗することもしちゃいけないような気がして、床に正座してすごすごと肩をすくめる。  膝にやった両手をぎゅっと握りしめると皮膚が白くなって……  顔を上げずにそんなことばかり考えていた。 「コレ よ」  先ほどと同じ言葉に、勇気を振り絞ってエイっ! て顔を上げると、ワンピースを乱したうたが恥ずかしそうに立っている。  普段は他人が目にするようなことがないような箇所があらわになって…… 「傷、あと ?」  それは臍の下、手術痕を目立たさないような配慮なんてかけらも込められずに縫われた傷跡だった。  見ては悪いと思いつつも視線をちらちらとやると、服の間から見える傷跡は古く、そして大きいものだと言うことがわかる。  怪我か、病気か、なんて尋ねるのは野暮な話だろう。  これは、誘拐犯につけられた傷だ。  けれど、何のために? 「み、見えた?」 「ああ」  オレの言葉を聞くとうたはささっとワンピースを直してベッドに座り直してしまった。  女性の肌に残るにはあまりにもな傷跡に…… 「これはね、私を誘拐した組織が子宮とか卵巣とかをとっていった痕なの」 「…………」  「は?」と言う言葉すら返せず、喉の奥で突き刺さるような痛みを感じさせた。 「オメガはその体に価値があるの、愛玩として、性奴隷として、子を産む機械として……」

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