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雪虫4 31

「しずる?」 「あ……なんでもない、雪虫に触りたかっただけ」  部屋に入った途端抱き着いてくるんだから、何かあったって言っているようなものだ。  さすがの雪虫もおかしいと思ったのか怪訝な表情でオレを見上げて首をひねっている。  腕の中の、力を込めたらあっさりと潰れてしまうような存在。  オレのおかしさに気づきながらも、問いただすことなくじっと待ってくれているその様は、柔らかく包み込まれている気分にさせる。  その片鱗を見ただけでもぞっとするような過去を持つうたは、こんなほっとできる瞬間を味わったことがあるんだろうか?  αとΩの間にある確かな絆から生まれる無条件の安心感、多幸感を……怖い思いをした分、それを分かち合って慰め、包み込んでくれる幸せを……  匂いの薄いうたは、手に入れることができないかもしれない。 「雪虫、触れてもいい?」 「?」  抱き着いているのにそんなことを言われて、雪虫はわけがわからないと言った風に首をひねる。  本来ならば、熱が出ているのだからできるだけ安静にしておかなくてはならないのに、うたの寄る辺のないような寂しさを思うと心の底にぽっかりとした穴が開いたかのように感じてしまった。  それを埋めたくて……  雪虫に少しでも触れていたかった。  いつもはオレが体温を分け与えるはずなのに、今日は雪虫に熱があるために布団の中は汗ばむほどに暖かい。  さらさらとしている肌がしっとりとして、オレがこうして抱き着いているのも負担になっているんじゃと思うオレと、それでも引っ付いていたいと思うオレがせめぎ合っていた。  性的に触れているわけではないけれど、服を脱いでもぐりこんだ布団の中は雪虫の香りで満たされていて、背中に回した手にじっとりと汗が流れていく。 「きもちぃーね」  そう言って頬を胸につけてくる雪虫は、終わったばかりの発情期のせいもあってかすぐに朱色に染まった。 「うん」 「この間みたいの、する?」 「え⁉ ええ⁉」 「おちこんでたら、おっぱいがいいってきいたよ?」 「あ……や……それは……」  そう言いつつも雪虫が手を広げてくれるから、蜜に吸い寄せられる虫のようにふらふらとそこに収まる。  ふかりとした薄い胸板。  すっきりとした冬の花の香り。    早い鼓動と、求めてくれているとわかる熱。  魂の欠片。  半身。  出会って一つになれた存在。  柔らかく脈打つ鼓動を聞いていると、ささくれたような心が凪いで癒されていくのがわかる。 「……ヘルマプロディートスへの求愛、もしくはアンドロギュノスの悲劇 か」 「ヘ……?」 「ヘルマプロディートス……」

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