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雪虫4 32
やはりきょとんとした顔をされて、オレはしぶしぶ雪虫の胸から頬を離した。
「かつてアルファとオメガは一人の人だった。それが引き裂かれ別個の人となり、自分の運命を見つけたものは融けて混ざって無性となり、隙間があっても寄り添いあった二人はベータとなった。そして運命を見つけられなかった者たちがアルファとオメガとなった。故にアルファもオメガも半身を求めて彷徨い続けるんだって」
「じゃあ……雪虫としずるのこどもはむせいなの?」
「や、そう言うわけじゃないらしい。雪虫がオメガで、オレがアルファだから子供の性別はどっちかになる」
「へぇ!」
きらきらとした目で見つめられて、瀬能の言葉も聞いておくものだなぁとちょっと鼻が高い気分になる。
「オメガなら、しずるに似てる?」
「え?」
「アルファなら、雪虫に似てる?」
「あ……逆じゃない?」
「そうかなぁ」
ちょっと拗ねたようにぷく と頬を膨らませるから、「すねないで」って言いながらつんつんと突いた。
柔らかな頬は思うままに撫で続けていたいけれど……
「ほら、肩が出てる。冷えるから」
オレにはなんてことのないスキンシップも、雪虫の肌には大ダメージになることもある。
こうして肌を触れさせてただ抱き合うことが精いっぱいだ。
「いい匂いがする」
「しずるを大好きだってにおいだよ!」
「ん、嬉しい!」
腕の中にいる雪虫が自分のことを大好きだと言ってくれるだけで、天にも昇れちゃうんじゃないかってくらい心が弾むけれど、その弾んだ心の端っこを縫い留めるようにうたが告白してきたことがしがみついている。
自分の体のことを、医者でもないオレに告げる勇気を思うと雪虫と二人だけの時間だって言うのに集中しきれない。
一人で抱え込むには大きすぎる経験を、うたはどうしてオレに話そうと思ったんだろうか?
正直、オレへのうたの当たりって言うのはマイルドな感じはしないから、なんでなのかは疑問に思ってしまう。
親しいか親しくないかで言うなら……素? を見せてくれている分、仲がいいのかもしれないけれど、それならセキや雪虫達の方が仲がいいだろうし。
もっとも……同じΩに告白する話としては重すぎて、そこを考慮に入れたのとオレがその組織を潰したいって思っているって知っているから教えてくれたんだろうか?
「……しずる? 他のことかんがえてる?」
「あっ……なんでもなくて……」
そう誤魔化そうとしたけれど、冬の青さを滲ませた瞳にひたりと見つめられてしまって、言い訳の言葉を飲み込んで代わりの言葉を探した。
「うた、が、 」
気になっている って言うと語弊がありそうだ。
引っかかってる って言うと悪い気がする。
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