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雪虫4 34
「たすけてあげてね」
オレの言葉のようにシンプルな答えが返ってきたことに目をしばたたく。
「うた、好き」
「あ゛?」
「セキも好き」
「……」
「だから、困ってたら雪虫のかわりに助けてあげて」
いたずらっ子のように細められた両目ははっとするほど青い光をチカチカときらめかせていて、オレの悩みを吹き飛ばしてしまいそうだ。
「おねがいね」
「わ わかった」
雪虫は、オレが他のΩと仲良くすることに関しては何か思ったりするんだろうかと、少し聞いてみたい気もしたけれど言い出せなくて口をつぐんだ。
はっきり大神にマーキングを受けているセキならばともかく、うたはフリーの身だし、αは何人でも番を持てるんだから、ちょっとは妬いたりしてくれないかなぁ……って、淡く思った。
画面に映るのは、波にさらわれていく砂だ。
さらさらと動くその下から小さな貝殻がまろび出て、それを見た瞬間に雪虫はわっと声を上げた。
オレ達からしたらなんてことはないただの海の光景だって言うのに、外の世界を知らない雪虫にはそれが堪らなく面白いのだろうだ。
もちろん、この部屋にも小さいがテレビはあっていろいろな番組を見ることができるのだけれど、雪虫はオレが撮ってきた映像の方がいいと言ってくれるから、出かけた先に面白いものがあればこうして画像に残して帰ってくる。
「水が冷たくてさ、気持ちよかったんだ。調子に乗って足もつけたんだけど、塩水だからべたべたで……」
「そう なんだ 海の水にはおしおが入ってるの?」
「うん」
そんな些細なことも知らない雪虫は、制限のある生活が息苦しくはないんだろうか?
以前、瀬能に尋ねてみたことがあったけれど、「宇宙があると知らなければそこに行こうとも思わないだろう?」と言葉を返されてしまった。
世界がこの狭い部屋で完結するならば……でも、雪虫は外の世界の広さを知ってしまっているんだから、憧憬は……持っているんだと思う。
「雪虫は……海に行ってみたい?」
「うぅん!」
勢いよく返された言葉は想定していなかったものだったせいか面食らってしまって……
「うみは前につれて行ってくれたから 星のおしろ!」
朝日に照らされて、白い石で組まれた城壁が輝き出したあの瞬間を思い出したのか、雪虫の頬はさっと赤みを帯びて嬉しそうに緩んでいる。
「や、でもあれは……」
誘拐されて、発情期になって、お互いボロボロの中でほんの一瞬見ただけのもので、海なんて遠目にキラキラと輝いている部分しか見たことはなかったはずだ。
「しずると、番になったときに見たから」
赤くなった頬をさらに赤くして、雪虫は照れくさそうにふふふと可愛らしく笑った。
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