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雪虫4 35

「だから次はー……花がみたいな」  雪虫が指さしたのはポスターに映っている蓮華畑だ。  幾ら「つかたる市」が地方だって言っても、今でも田んぼに蓮華の種を撒くところは少なくて、見ようと思うならば随分と遠くに連れ出さなければならなくなる。  αの独占欲や、番を閉じ込めてしまいたいって感情だけじゃなくて、雪虫のことを思うならそれを見に行くのは不可能だ。  オレは「いいよ」って言える答えを探していく通りも考えを巡らせてはみたが、そのどれ一つとしてこの研究所に幽閉されている雪虫を自由にしてあげられるビジョンが浮かばない。  ……いや、雪虫を狙う組織を潰すことができたら……と思わなくもないけれど、瀬能や大神が何年もかけて行っていることをオレがちょちょっとできるとは思えなかった。  けれど……   「季節があるから、すぐには無理だけど……、行こうか?」  何年かかってもその組織を潰して、雪虫を自由に外に出せる日を作る! 「んふふふ、たのしみ!」  にこ! と笑い返してくれた雪虫があまりにも可愛かったので、思わず手に持っていた携帯電話のカメラでパシャリと写真を撮る。  突然のオレの行動に雪虫は驚いていたようだが、写真を撮られたのだとわかると頬をぷくりと膨らませてこちらをじとりと睨んできた。 「とうさつは、ばれちゃダメなんだよ!」 「バレるんじゃなくて、盗撮自体がダメなんだよ」  かいつまんだ知識の修正を行ってやりながら、雪虫を抱え込んで先ほどの写真を画面に映す。  自然体の満面の笑みが映されたそれは、家宝にしてもいいくらいだ。 「ゆき む し だ」  ぽつぽつ と自分の名前を言う雪虫の反応は、まるで初めて自分の写真を見たとでも言いたいくらいに戸惑って見える。  今まで幾枚も写真は撮っていたし、セキやうた達とも撮っているからそんなことはないはずなのに。 「笑ってる!」 「うん! すごくいい笑顔、オレ……雪虫の笑顔を見ると幸せになれる! すごく好き!」 「しずるのは? しずるの写真は?」  そう言われて携帯電話内のアルバムを探してみるけれど、自分の携帯電話のカメラで自分を……って言うのはあまりしないせいか、オレの映っているものはない。  なかなか見つからないことに雪虫はしょんぼりし始めるから…… 「雪虫! 顔を上げて!」 「?」  オレの言葉に顔を上げた瞬間にシャッターを押す。  ピロンって音と共に切り取られたのは満面の笑みのオレと、戸惑ったような雪虫の顔だ。 「ほら撮れた!」 「⁉ ゆ、雪虫わらってないのに」 「じゃ、笑って!」    

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