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雪虫4 39

 αがΩに惑わされるって言うのは、こう言うことなんじゃないのかって思ったりもする。  ぽつりと寄る辺ない様子でいるのを見ると、どうしてもざわざわとした形容しがたい気分になってしまう。 「うぅん。規則は知っているから……君にも迷惑をかけるでしょう?」  ぱちぱちと目を瞬かせるとしがみついていた涙が振り払われて、年相応の落ち着いた雰囲気をあらわにさせる。  それは分別をわきまえるだけの経験をしてきているようにも見えたけれど、別の見方をすれば希望を抱くことを諦めるのに慣れてしまった人間のソレだ。  オレはー……そんなことあって欲しくないけど、もし雪虫から拒絶されたら、駆けずり回ってでも何をしてでも傍に居られるようにすると思う。  たとえそれが自分の首を絞めることになっても、オレは雪虫から離れられない。 「いや、でも御厨さん、また明日もあそこで待つんじゃ 」  大神と瀬能の監視下にある人間が抜け出せるなんて思えないし、第一……みなわは御厨に会いたいとは思っていないようだ。  生きて帰れたのなら飛びついて抱き合って、よかったよかった で済ませればいいと思うのは人生経験のなさからくるものだろうけど、でも……二人ともそれを望んでいるように思えてしまうのは、経験がなくてもわかることだった。    それで生きて行けないのか?  好きな人と一緒に居られて嬉しい。  それだけで、本当は至上の喜びとなっていいはずなのに…… 「……明日からは、きません」  そう言うと少し困ったような笑いをして言葉を濁す雰囲気をした。  けれどオレが胸から下げたままにしていた研究所のスタッフが持つタグを見ると、「明日からヒートが始まるので」と簡潔に告げる。  一般人のαに言うにははばかられるけれど、研究所で……しかもオレの肩書は『瀬能研究室付助手』ってなっているから、話してもいいだろうと思われたらしい。  御厨の中では、オレは医者か、それに近しい職業のくくりなのかもしれなかった。 「薬の効きがよくない方なので。一人、家でおとなしくしてるよ」  悲しく笑って、頭を下げる御厨は頼りない様子で風が吹けば倒れてしまいそうな風情だ。  それでも……発情期が近いと聞いたからだろうか、先程の興奮のせいで目を潤まして頬を上気させているのだとばかり思っていたオレは、気まずくなって「あ、う」ともじもじとそうですかと曖昧な言葉を返した。    御厨の項には明らかに番契約を結んだ歯形……いや、歯形と言うよりも嚙みちぎられたような傷跡があって、番がいるはずだった。

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