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雪虫4 40
けれど一人で家にいると言う言葉や、みなわの恋人? 婚約者? だと言ったことを考えると……
「番がいないから、しょうがないよね」
はは と諦めて笑う悲し気な笑顔は、Ωの運命に散々逆らおうとしてそれでも抜け出せずに諦めてしまった人間の笑いに見えた。
「く 薬の調整とか受けられていますか? なんだったら、体調を見て専用に処方してもらうってのも 」
「母が向こうでお世話になっているから 」
向こうと指さした方向は研究所の研究棟より少し左にずれるような位置だ。
そこに何があるのかは、雪虫の入院や大神への殴り込み、それからみなわのお見舞いなんかで訪れたことのある病棟だった。
独特の雰囲気と言うのか静けさ……静謐さ? みたいな雰囲気があってオレはあそこに行くと落ち着かない気分になってしまう。
「大神さんが手配してくださって、入ることができたけれど、でも、すべてを甘えるってことはできないから 」
その言葉が意味するのは、個々人に合わせる形での抑制剤がだいぶ金額が張ると言うことだろう。
他のαにフェロモンを感知されないとは言え、発情期のあるΩ一人で母親を養って……
きっと、つかたる市の様々な補助を受けたとしても楽な生活ではないのはわかる。
そんな中で削れるものを削って……となってくると、我慢しようと思えば我慢できて金額が高めな抑制剤に行き着いてしまうんだろう。
独り耐えればいいと言う考え方は好きじゃないけれど、現状他に手があるのかと問われれば言葉に詰まってしまう。
「あっでもっそんなに酷くなくて……お守りもあるし」
「お守り、ですか?」
神仏に祈ってΩの発情期がどうにかなるなら世の神様は信者であふれかえるだろう なんて罰当たりなことを一瞬考えた。
そんな胡乱な考えが顔に出ていたのか、御厨はカバンの中から小さな巾着を取り出して中身が見えるように広げてみせてくれる。
ごみ と思ってしまうオレは、やっぱり罰が当たるべきなのかもしれない。
「紙 ですよね?」
何か印刷されているような痕が残ってはいるけれど、表面がけば立つようにぼろぼろになってしまっているせいで、そこに何が書かれていたのかはオレにはわからなかった。
白と……青い文字?、赤も見えるけれど……?
何度も折りたたまれて伸ばされてを繰り返したのか、折り目は疲労のせいで破れてしまっている。
「えぇと?」
「僕のお守りなんだ。これを抱きしめていると、すごく心が凪ぐんだ」
落ち着くではなく、凪ぐと表現したことに面白さを感じながら、御厨の掌の上の紙に目を凝らす。
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