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雪虫4 42

 曖昧に苦く笑って返した表情を、御厨がどうとらえたのかはわからなかったが、少し悲しそうににこりと笑ってから「それじゃ」と言って踵を返した。  薄暗くなり始めた世界の中で、たった一人になった御厨は光の届かない海の底を独りで彷徨っているように見える。  不安定にふらりふらりと体を振る姿を見つめなが……──── 「っ⁉」  ぐらっとその振れが大きくなった。  それはもう歩行のために揺れているなんてもんじゃなくて、とっさに駆け出して何も考えずにさっと手を差し出す。  前腕が地面に擦れて熱い感覚がしたけれど、それと同時に細い体が腕の中に収まってくれた。  衝撃だけを考えるなら御厨はどこもぶつけてはいないはずだったけれど、腕の中の御厨は僅かに呻くだけで顔すら上げない状態だ。  どこか怪我した?  意識を失った?  貧血?  幾つもの可能性を考えながらも携帯電話を取り出して瀬能にかける。  下手に119番通報するよりは、研究所から近いここならば併設の病院に運んでもらえるかもしれない。 「先生! 御厨さんが倒れました!」 「今一緒にいる?」 「はい!」 「御厨くんの安全を確保しながら待機してて」  そう返事をしつつも瀬能の背後でバタバタと音が響く。 「通話は繋げておきます」  ほんの短い言葉だったと言うのにこちらに向かってくれるらしい瀬能の態度にほっと胸を撫で下ろしながら、腕の中の御厨を揺らさないように注意しながらそうっと楽な姿勢にさせる。  瞼を閉じたために目立つ両目の下のクマと、光の加減でこけて見える頬と……  力なく投げ出された手の細さは雪虫を思い出させるほどで、オレに「番をなくしたオメガは衰弱死する」と言う言葉を思い起こさせた。  額に手を当てて熱を測ってみるが、むしろ体温がなさすぎるんじゃないかと思えるほど冷たい。一瞬発情期に入ったのかもしれないと思っていただけに、今の御厨の様子を見てどう対処したらいいのかわからなかった。 「ぅ  」  特に皮膚が薄いからだろうか? 薄青い瞼がひくりと動いてうめくような声が漏れる。  それは何かを探しているような雰囲気で、指先がわずかに持ち上がっては空を描いて地面に落ちていく。 「 どこ  」 「御厨さん⁉」 「どこ  ど して  」  どこ、どこ、と尋ね続けるその姿は…… 「みなわ? ……それとも  」  離れてしまった番相手を探しているんだろうか?  色の悪い唇を震わせて追い求める相手はこの場にいるはずないのに、意識を失ってなお探し求め続けるその姿は……まるで呪いにかかったようだった。  

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