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雪虫4 43

 愛の虜だとか、  愛の奴隷だとか、  そんな言葉はしっくりこなくて、これでは呪縛だ と御厨を見下ろして思う。 「番は……っどうしてんだよ……っ」  それが単純な別れか、それとも死別だったのかは知らないけれど、例え死んだとしてもそれでも守ってやろうと言う気でΩの項を噛むものじゃないのだろうか?  どうしようもない事柄があるのはわかってはいたが、それでも自分のΩを手放せてしまう考えがわからなくて、思わず眉間に皺が寄るのを感じた。 「  ……ぅ」 「あ! そうだ」  失礼なことだとは百も承知で、御厨の鞄に手を伸ばして巾着を探し当てる。  ここにわずかに残された番のフェロモンを嗅げば、御厨の具合が少しはよくなるかもしれない と、一縷の望みをかけてそれを頬の傍に置いた。 「 ぅ……っ  」  呻く声は相変わらずで、縋るように鼻をすんすんと鳴らすも余計に悲しそうに眉を寄せて、どこ とうめき声を漏らす。  少しでも強く指で触れればボロボロと崩れるその紙はもう、御厨を守るものとしては役に立ってはいないように思える。  あまりにも脆弱なそれは御厨を支えるのにはまったくの役立たずで、砕け行くその姿は道半ばで力尽きたようだった。  腕の中の儚い生き物が縋るにはあまりにも脆いそれに、思わず腹が立った……のだと思う。  チカチカとした脳裏にひらめいた光の点滅と本能的に囁きかける腹の底からはいずりだしてくるような感覚に、抗わずに流されるようにして手を伸ばした。  まるで風に攫われる冬の雪のように白いくたびれた紙片がぱっと舞い散って…… 「海を渡ったかのような風」  心に浮かんだのはそれだ。  遠くから海を渡り、やっとたどり着いた砂浜で花を撫でる風。 「さらりとしていて、わずかに潮の香を含んだ……力強く吹くけれど  」  髪を揺らす時は壊れ物に触れるかのように柔らかい。  海に足しげく通っているために、イメージははっきりとしていた。  そのイメージから静かに何かが溢れ出して、滴るように腕を伝い指先にまで達する。  水ではないために、紙片を濡らすことも染み込むこともないけれど、満ちるように腕の内を伝い流れていくそれは……   「  っ」    チカチカと瞼裏が明滅して、促されるように脳裏に浮かんだイメージはどんどんと膨らんでいく。  そうするとどうしたのか掌がやけに熱くて、焼けた鉄球でも握り込んだかのようなじくじくとした皮膚を苛む痛みが走る。  あまりの痛みに叶うなら、こんなことはやめてしまいたいと思った。  けれど、なけなしのすり潰されそうになった理性がダメだと強く訴えかけてきて、ここでそれを求めてしまったら御厨は助からないんだって、なぜだかそう言う確証があった。

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