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雪虫4 44

   深く息を吸い込み、手の痛みに負けないようにたった一つのことを願って、指先に力を込めた。   「まぁ番不在によるショック症状だね」  そう言うと、瀬能は治療時に使うゴム手袋を外して捨てた。 「うまく生活できていると言っても、それでもオメガにとってアルファのいない生活は恐ろしいものに囲まれて心安らぐことのない、そんな場所だからね」    まるで、風邪ですねとでも言うような瀬能の調子にむっとした思いを抱いたが、それが真実なんだと思い直して唇を引き結ぶ。    幸いなことにオレの知り合いには番を解消されたり死別したΩはいない、だから余計に御厨の置かれている状況がわからなかったのかもしれない。  寄る辺ない人間の軋むような苦しみを、安易に考えてしまっていたのだと白い顔をして横たわる御厨を見て思う。  話には聞いていた。  番契約を結んだのに、何らかの理由でαと離れたΩはその寂寥感から衰弱していくのだ……と。  正直、今回の御厨のことがなければただ鬱っぽくなるだけなんだろう程度にしか思えていなかったと思う。  鎮静剤を打たれるまで悪夢にうなされるように求め続け、けれど指先に何も触れないショックに息すらうまくできずに……その姿は悲しみのあまり自ら心臓を止めてしまおうとしているようにさえ見えた。 「寄ってるよ」  瀬能はそう言うと自分の額を指先でコツコツと叩き、ぎゅっと皺を寄せて見せてくる。  それが誰の真似かなんて考えるよりも明白だ。  瀬能はオレに向けて考え込みすぎだと言いたいらしいが……そんなこと言われても目の前で起きたことだし、ましてや知り合いなのだから考えるなと言う方が無理だろう。 「御厨さんは、どうなるんですか?」  ベッドの上で横たわり、白い顔色をしてわずかに呼吸をしているだけの御厨は、素人目には命が危ないんじゃないだろうかとさえ思わせる。  繋がれた点滴の落ちる音の方が力強いのではないかと思うほど、その存在感は希薄で今にも消えてしまいそうだった。 「どうなるって言われても、こればっかりは個人差も大きいし、周りの支えにもよるものだから…」  胡散臭い笑顔でも返してくるのかと思った瀬能は予想に反して、渋い顔だ。  苦い表情は自分の無力さを痛感しているんだよ? とでも言いたげに見える。 「支え……」  一瞬思い浮かんだのは項を噛んだ番のαのことだったが、この状況でも瀬能が呼ばないと言うことは呼べない、もしくは呼ぶことができないと言うことなんだろう。 「何度でも言うように、番を解消されたオメガは徐々に衰弱していくものなんだ」 「それでも何か方法は無いんですか?」  オレの言葉に、瀬能はやはり困ったように肩をすくめるだけだった。  

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