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雪虫4 47

「ゆ……雪虫は、オレが浮気とかすると思ってる⁉」  ちょっと強めに言ってしまったせいか、オレの言葉は雪虫を非難するかのように聞こえてしまったかもしれない。  こんな強い調子で雪虫に何かを言ったのは初めてで、オレの心臓は今にも飛び出しそうなほど跳ね上がる。 「す……するの⁉」 「し……しないよ!」  お互いしどろもどろに言い合って、お互いがお互いのことにショックを受けているような感じがして……  なんとなく感じる座りが悪いような雰囲気の悪さは、初めての経験だ。  初喧嘩⁉ なんてのんきに思えるほどの経験値のないオレは戸惑って身をすくめるしかできない。  オレは雪虫以外の人間に心を寄せるなんてことは考えたこともないし、考える隙間すらないくらい雪虫のことを思っているから余計に少しでもそう思われたことがショックでしかたがない。  それともオレの態度のどこかに、浮気しそうな部分でもあったんだろうか? 「雪虫がいるのに、そんなはずないだろ?」  オレのどこかに雪虫を不安にさせる要因があるんだなって思うと、もうこれはオレが悪い一択だ。 「他のオメガの臭いをつけてきたのは悪かった!」 「…………」 「ご、ごめんて」  がばりと頭を下げて……雪虫が返事をするのを待つけれど、目の前の気配は動こうとしない。  言葉も動きもないままの雪虫を前にオレはざっと血が下がる感覚に震えそうになった。  雪虫が怒って、  雪虫が許さなかったら?  雪虫が、オレを見限ったら? 「  っ」  ぶるっと体の奥から沸き上がった恐怖は、雪虫に背を向けられることに対する恐怖だ。  雪虫が、  雪虫に、  雪虫の、  雪虫……  ひぃ と喉の奥がなった気がした次の瞬間、オレの頬を包んだのは低い体温だった。 「しずる!」 「  っ」  オレがぶるりと震えたからか雪虫の肩が震える。  細い腕ではオレの頭を支えることも重労働なのに、雪虫はしっかりオレを掴んで離そうとはしなかった。 「 ゆ  ごめ、も、もう、他のオメガの臭いなんて、  つけな  つけない」  ごめん、ごめん とうなされるように呟くと、冬の空の青さを持つ両目が少しだけ細められる。  それが微笑んだんだってわかった途端、掬い上げられたような……救われたような心地になって溺れた人間のように大きく呼吸をした。 「あのね、雪虫は……」  荒く息を吐くオレを困ったように見ながら、雪虫は言葉を探しているようだ。  この研究所に来て雪虫の世界は随分と広がって語彙も増えたけれど、それでも時折伝えるのに言葉が見つからないことがあったから、オレは辛抱強く言葉が見つかるのを待つしかない。

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