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雪虫4 51

 日中のほとんどは研究所で過ごしているし、出かけることがあっても大神からの指示で出かけるばかりで……そんなオレに新しく別の場所で人間関係を築けと言うのは、何か新しいいじめなんじゃないかと思える。 「ずいぶんと理不尽を言われているように感じるかもしれないが、君は今やっと番にできた雪虫に依存しているように見える」 「見えるって言ったって……」 「いや、依存しすぎているように見える」  珍しく真剣な調子で言われて、掌の汗は更に酷くなっていく。  それはどこかで自分自身、心当たりがあるからだったかもしれない。雪虫に見放されるんじゃないかと考えただけで、指先から血の気が引いていくような気がするのだから、オレの体は脳みそよりも理解が早い。 「でも……運命の番って、そう言うものじゃないんですか?」  瀬能にはわからないだろう、二人でいる時のあの完結した世界に浸っているような幸福感を。  多幸、  喜悦、  幸甚、  満悦、  至福。   「一緒にいると、ただただ、幸せになれるんです」    かつてαとΩは一人の人だった。  それが引き裂かれて個人になり、自分の運命を見つけたものは融けて混ざって一つに戻ることができる。  そう言われる理由がよくわかる。  雪虫がいてくれると二人なのに一つなのだと本能が頷く。  体の左右が、上下が、まったく別の場所に向かって行けないように、オレ達は離れては生きていけないんだ。 「人は抱き合ってるだけで生きてはいけないんだよ」 「わかってますよ! だからオレは働いてるし、少しでも雪虫が食べてくれることを願って野菜作ったり、いろいろしてるんじゃないですか!」 「人を分かつものはそれだけじゃない。世の中には   っ」  思わず睨みつけてしまった自覚はあった。  なんだかんだと、からかってくることはあっても瀬能はオレにとっては恩人だし、雪虫の体のことをよく考えて悩んでくれるいい医者で、時には相談にも乗ってくれるようなそんな人だから険のある視線を向けたことなんてないのに……  それは瀬能からいつもの笑顔を隠し、老獪な人間だけが持つ鈍い光を宿らせる両目を浮き立たせてしまったようだった。  びりっと音がしそうなほどはっきりとオレを見据える目は、数多くの人の生き死にに関わってきた振り払えない重さを宿していた。 「……すぐにどうこうと言うのは難しいだろうから、まずは雪虫がオメガグループにもう少し多く参加するところから始めてみたらどうかな?」 「……でも、時々、ベータもいるじゃないですか」 「まぁ談話室代わりは食堂だしねぇ……君だって食堂は使うだろう? 他のバース性の人間が使うのを止められないからねぇ」  

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