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雪虫4 52
確かに、研究所の食堂をΩが談話室として使うから他のバース性の奴は使用禁止 とかになったら、バースハラスメントも真っ青な事案になってしまう。
と言うかそれを回避するための全性別が使えるスペースを設けなくてはならなくての食堂だったはずだ。
過剰? 過熱? しすぎているΩ性への擁護がもたらした結果だとか聞いたけれど、何事もほどほどが一番だってことだ。
「それに、雪虫に君以外のフェロモンがつくのを許容する訓練にもなるしね」
「……っっっ、でもっ不愉快なんです!」
「あんまり酷いと強迫性障害になっちゃうからね?」
医者にどん と強い言葉を出されてしまうと、思わず怯んでしまう。
先ほど自分自身で「何事もほどほど」だと思ったばかりだけに、反論しようとした言葉が消えた。
いや、反論しようとすれば幾らでもできたのだろうけれど、諫めなければならないほどオレの態度が酷いのかもしれない と、頭の片隅のちょっと冷静な部分が教えてくれた。
オレは、雪虫さえいればいい。
でもそれで世界は完結しない。
その矛盾に……きっと身を滅ぼしてきたバース性の人間は多いのだと思う。
「気を……付けます」
「素直にアドバイスを聞けるとこは君の美点だよね」
そう言うと瀬能はくるくるとペンを回してカレンダーを気にする素振りをする。
公式的なスケジュールばかりが書かれたそれを見て、そう言えば……と引っかかっていたことを口に出した。
「セキはいつ帰ってくるんです?」
「うん?」
雪虫が発情期に入ったあの日が、最後に見かけた姿だ。
セキも雪虫と同じように建前上はここに保護されているのだから生活の拠点はここにあるのだけれど、大神とのすったもんだ? してる時から見かけない。
大神の出張についていくこともあったけれど、そう言う時は事前に何か言ってから行くし、仲のいい雪虫も何も聞いていないようだった。
「あー……いつになるかなぁ」
くるん とペンの回し方を変えて、瀬能は背もたれに勢いよく体重を預ける。
悲鳴のように上がる椅子の軋みにかき消されて、何かを言ったようだったけれどオレの耳には届かない。
「大神さんについて旅行……じゃなかった、出張に行ってるんじゃないんですか?」
ネタにしようと思ったのかお土産に渡されたカラフルなお菓子を思い出してちょっと鼻に皺が寄る。
「大神さんもしばらく仕事だって 」
「あー……仕事、ね」
「なんです? 含みのある……」
そこでふと、仕事と言ったのは自分自身だったことに気が付いた。
直江はオレの言葉を肯定はしたものの仕事だとは返事を返してなくて……
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