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雪虫4 54
バース性の人間の多いつかたる市にいるからかそれが普通だって思えてしまっていたけれど、αもΩも人目を惹く容姿をしている人間が多いのだと改めて感じる。
「ずるいなぁー……」
目を惹く容姿が多い だけであって、全員が全員そうと言うわけではないのでー……βと偽って生きて行けてたオレからしてみると、なんだかなぁな話だ。
「何かあった?」
隣の席からオレの独り言に反応してくれる東条は、少し色素が薄いのか真っ黒でない髪と瞳、すっと通った鼻筋が印象的だった。
派手な顔立ちと言うわけではなかったけれど、目鼻の位置が絶妙に好ましく思える位置にあるからか、こんなふうに気にかける様子を見せられたらどきりとしてしまう。
「いえ、なんて言うか、東条さんはモテそうだな と」
話題の一つだと思ってそう振ってみる。
「え? ああ、普通だよ」
「普通……」
なんてことのないように言うけれど、この人の普通の基準はこの人の物であってオレの基準とはかけ離れている気がしてしかたがない。
「それに既婚者がモテてもね」
あはは と笑って左手を見せてくると、そこにはしっかりと銀色に光るシンプルな指輪がはめられている。
「番も今のところこれ以上増やす気もないし」
目の前からひらりと逃げていく左手を見やりながら気になった言葉を追いかけるべきか否かで一瞬だけ悩んだが、幸いと言うべきか東条の方からその話題を振ってくれた。
「阿川くんは? 次の番は?」
「ひぇっ」と出そうになった言葉をなんとか飲み込めたが、気配だけは伝わってしまったようで……
「ああ、番になったばかりだったね。今が一番楽しい時期なのに野暮な話だ」
「あ……いえ、そんな……」
「それとももう次の候補がいたりする?」
意外そうに言われてどう反応していいのかわからないまま、曖昧に返事してどっと吹き出した汗を拭うために額に手をやった。
爽やかそうな外見から飛び出した不穏と言うか、自分の考えとかけ離れた言葉にドクドクと心臓が脈打つ。
「もし次を考えているなら紹介もするけれど?」
「オレ……オレはっ雪虫がいますんで、結構です!」
思いのほか大きな声が出てしまったけれど、どうしてもこれはきっぱり言っておかないといけない話だろう⁉
大声にわずかに目を見開いたが、東条はそこのことを咎めるでもなくゆったりとした様子で笑いを漏らした。
「ごめんごめん、君はまだ若かったね」
「わか……い、ですけど 」
それとこれの話が繋がるとは思えない。
「若さって関係あります?」
「運命だからって妄信できるのは若さだよ」
そう言ってちょっと笑いを漏らす姿は、瀬能がオレをからかう時の笑顔に似ている。
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