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雪虫4 55
「運命なんて……面倒にしかならない……」
呻くように言う東条は、確かにオレよりも年上でいろいろな経験をしてきたんだろうけれど、逆にそのしがらみにがんじがらめになっているように思えた。
「面倒なことなんて何もないですけど」
「あの子に出会わなかったら、君もこんな危険な仕事に就かなかっただろう?」
危険……
そう言われてぴりっと空気が引き締まった気がして背筋が伸びる。
「そうかもしれませんが……じゃあ、東条さんは危険とわかっててどうしてこの仕事をしてるんですか?」
オレのような若造にすら結構な給料が払われているのだから、東条はきっとそれよりも貰っているだろう。
トラックを突っ込ませたり、内臓を抜いていくような事件の絡む仕事をどうしてしようと思ったのか不思議だった。
「なんとなくかな」
「へ⁉」
返ってきた言葉は思ったよりも簡潔だったし軽い。
本人が言っているように危険を伴う仕事に「なんとなく」で従事するのは違和感もあったけれど、そのことをなんとも思っていないのがわかる口調だ。
「理由がないわけではないけれどね。金銭の問題だったり、本業の合間にできるって言うのも大きいかな」
本業……と口の中で呟く。
確かにオレも瀬能の助手業の合間に駆り出されるような形でやっているのだから、東条もそうだと言う可能性があることが抜け落ちていたらしい。
「普段のお仕事は何をされているんですか?」
「うん?」
軽く首を傾げると、東条は男でも惚れ惚れしそうな微笑を浮かべて唇に指を一本立ててみせた。
正直なところを言ってしまうと東条との出張は拍子抜けするほどあっけないもので、各所の小中学校を巡ってそれらしい理由をこじつけて校内見学をすると言うものだった。
もう来ることはないと思っていた学校と言う場所に複雑な思いになるも、それよりはどこが危険な仕事なのかと言う疑問の方で忙しい。
学校側とのやり取りは東条が行ってくれるし、オレはただただ後ろをついて歩く麻薬探知犬と言ったところだ。
「……なんか思ってたのと違うんですけど」
高い木の植わる中庭を眺めながら廊下を進んでいる途中に思わず言葉に出てしまう。
「どんな想像してた?」
少し吹き出すような問い返しは、オレがどう言った危険な目に遭うか想像していたことがわかっている様子だ。
教師が説明する声が教室から響いて、廊下は学校独特の複雑で懐かしい匂いで溢れかえっている。
寂寥感を語るには記憶が生々しいそこを眺めて、「映画みたいな?」とそろりと声に出した。
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