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雪虫4 57
さ と促されてもオレには何のことかわからない……と言うか、わかりたくない。
「ささっとニオイを嗅いで誰がオメガか見つけるんだよ」
惚れ惚れする笑顔で言われた言葉を噛み砕いて、あの給料には尊厳を捨てるための金額も含まれているのか と立ちすくむ。
「と、東条さんもアルファですよね⁉」
じゃああなたでもいいんじゃ⁉ 的な目で睨みつけると、大人の笑みで躱される。
「私は君ほど嗅覚が良くなくて……残念だけれど、この重大な役割は君に譲るしかなさそうだ」
「って言うか、名簿と照らし合わせてオメガの生徒がいるかどうか確認してからでも遅くはな……」
キャンキャンと吠える子犬のように言い返してみたけれど、この役割をオレからとれば仕事らしい仕事はなくなってしまう。
金をもらっているのに働かないって言うのが罪だ! とまでは言わないけれど、それでも罪悪感は少しなりともあるわけで……
「……ぅう」
泣き出したい気分で鼻をすんすんと鳴らす。
オレが来るまではこの役目は誰が引き受けていたんだろうか? 東条は嗅覚に自信がないようなことを言っていたから、敏感な大神が直接出向いて靴箱の靴のニオイを嗅いでいたんだろうか?
まさかな……あはは……
「……ああ、この子ですね」
指さした先のネームプレートを確認して東条が頷く。
「きちんと登録されてる子だね」
「『野良』じゃなくてですか?」
ちょっと驚いたように言うと、オレの反応の方が意外だったのか東条は他の靴に目をやりながら肩を竦める。
「全員が全員、つかたる市に引っ越すわけじゃないからね。そりゃ優遇も多いけれど、同時にアルファも多いことになるし、あとは仕事の都合とか? 親の認識の甘さ とか」
最後の一言には棘を含むような雰囲気があった。
「でも、オメガの親はどちらかはオメガなんですから……」
「そうとも限らなくて、オメガは養子に出されやすいから。ベータや無性の人間が親の場合もあるんだよ、養親だね」
「あ……」
世の中のΩへの偏見はいまだ根深い。
自分がΩだとしても、子供は違うかもと一縷の望みにかけて子供を産んで……と言う話は聞いたことがある。
その結果子供の性別がΩで、番のαに子供と一緒に捨てられてしまったと言うΩがシェルターにもいた。
Ω一人では育てられずに養子に出す場合もある。
そのことを考えると、安易にΩの親はΩと思っていた自分の考えの浅さに恥ずかしさを覚えてしまう。
いろいろなケースがあって、どれを決めつけととってもいけないんだと胸に刻むように口中で繰り返す。
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