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雪虫4 58
「あれ?」
小さく上がった東条の声に顔を上げる。
「その角、その子もオメガじゃないか?」
「え⁉」
さっと振り返ってしゃがみながらすんすんと鼻を鳴らすと、先程までのものとは違うΩの香りが鼻孔をくすぐる。
薄い香りに思わずぐぃっと顔を近づけて確認するが、はっきりとはせず……つい中の上靴を手に取って顔を近づけた。
「 ────っ!」
間違いはないようだ。
そこに書かれた名前を告げると、東条はぎゅっと眉を引き寄せて険しい顔のままオレを見下ろし……
「靴に顔は突っ込まない方がいいよ」
と、生暖かい言葉をくれた。
公園へと場所を移して東条がどこかへと電話をしている間、勢い余って上靴に突っ込んでいた顔をごしごしと擦る。
つい夢中になってしまったのだから仕方ないだろ!
それだけ頑張って仕事してるんだし!
そう言い訳しても上靴に顔を突っ込んだ事実は消えなくて、なんだか地味にショックだ。
「 ────はい、ではそのように」
電話を終えた東条がオレの座っているベンチの横に腰かけてくる。
先ほどまでの校内の匂いが消えて、夏らしいむっとした土の香りを感じながら空を見上げた。
「そのうち教えるけれど、こうして『野良』を見つけた場合は次の人に引き継ぐんだよ」
「次の人?」
「弁護士だったりとか、そっち方面に明るくて社会的信用度の高い人だよ」
「ああ……なるほど。東条さん、よく気づきましたね。あの上靴……」
東条が指した先にあったのは靴ではなく上靴で……授業時間なら本来なら靴でなければならない。
随分と放置されたように見えた上靴は匂いが褪せてしまっていて、指摘されないと取りこぼしていたかもしれなかった。
きっと、長く登校してきていないのだろう、だからフェロモンが薄まってしまっていたようだ。
「嗅覚はよくないけど、耳はいい方なんだ」
「はぁ? 耳?」
フェロモンがどうして耳に関係してくるのか謎できょとんとしていると、東条は両手を耳に当ててじっと何かを聞こうとするような素振りをみせる。
「珍しいだろう?」
「そう……ですね」
とは言え、直江はどうやらフェロモンが見えてるっぽいし、『感じる』って部分だけで見るならこんなふうにフェロモンを音で聞く人もいる……のかもしれない。
いないかもだけど。
だけれども東条はからかうような雰囲気を滲ませてもいないから、本当に本当のことなのかもしれなかった。
「いやぁ、初日に見つけるなんて凄いなぁこれはこの後も期待しちゃうよ」
「っ⁉」
「今回行くことになっているリストは見たよね?」
「え……ええ」
地方の小中学校と言えば、ちょっとした数だ。
どこに登録されていないΩがいるのかわからない以上、ひとつひとつを虱潰しにしていくしかない。
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