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雪虫4 59

「まさかアレ、一度に回る予定なんですか?」 「目安としては三日だけれど、私も出張と言って出てきているから……早く終わるに越したことはないね」 「が、頑張ります。伸びたりしたらまずいですもんね、仕事とか家庭とか」 「まぁ仕事はどうとでもなるんだけど、他の番のところに行ってるって誤解されたらまずいかなぁ、ちょっとやきもちが酷いんだよね」  やれやれと一息つく東条の隣で、またも吹き出た冷や汗をどうしてくれようかと頭の中はぐるぐるだ。  たった一人しか番にできないΩと違い、αが複数のΩを番にできることは知っている。  けれどもそれをまったく悪びれないと言うのは、もう完全な考え方の違いであって相容れることはできないものだと思う。  どうして一人の番以外を求めるのか なんて話は、オレには逆立ちしてもわからないことで。  そこに本能や理性なんて話を持ち出されてしまうと次元のズレた話を延々とすることになってしまう。 「子供が生まれてちょっと落ち着いてくれたらいいんだけど。やっぱり時期的に敏感になってるみたいで」 「えっ⁉」 「えって、何?」  オレのリアクションに吹き出しそうになりながら問いかけてくる東条は、何にびっくりしたのかさっぱりわからないと言いたげだ。 「子持ちに見えないかな?」 「そ……それもそうですけど、お 奥さんっ赤ちゃんがいるのに三日も帰らなくていいんですか⁉」 「ああ、別に私がいたところでできることもないしね」  そう事も無げに言うけれど、妊娠ってそう言うものじゃないだろうと言葉が喉元まで出かかって……何かするから傍に居るんじゃなくて、できなくても傍に居る方がいいんじゃ と言葉を飲み込む。 「手 を、握ってあげるだけでも違うと思いますけど」  これから仕事をしていく相手だと言うことも踏まえて、考えて考えてオレ的に最大限に譲歩して選んだ言葉を言うと、東条はまたも「若いねぇ」と苦そうに笑った。  予定通りに三日で学校を回り終えて帰路につく。  今回見つけることのできた『野良』……Ωとして登録のされていなかったΩを見つけることができたのはたった一人だった。  これをオレは少ないと思ってしまったけれど、満足そうな東条の様子を見るに成果があっただけでもいいんだろう。  もしこれを繰り返すとなると……ぞっとする話だ。 「他にもっと効率のいい方法とかないんですか?」 「うーん……人が一か所に集まって、その素性を把握できる場所って言ったら他にあるかな?」  義務教育の期間ならば、事情がない限りは学校と言う一か所に集まるし、入学に際して個人情報も提出するのだから把握しやすいのはわかる。

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