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雪虫4 60

 高校からはオレのように中退する場合や進学しない場合もあるし、入院するような場合は病院側で検査するだろうからそこで発覚するだろう、そう言ったことを考えれば小中学校でΩを探すと言うのは、闇雲に探すよりははるかに効率がいい。 「う……ない、ですね」 「面倒そうだけれど、これがなんだかんだいい感じなんだよ」  そう言いながら書類をペラペラと捲る姿は疲れを感じさせない。  オレはこの三日間、慣れないことをしたし慣れない革靴だしでくたくただ。 「大体の流れはわかった?」 「はい」 「『野良』探しはこんな感じかな。捜索の方は大神さんが帰ってきてからゆっくりとね」 「……はい」  入れ替えられた可能性のあるΩを探すだけなら大きな危険はない と言うことなんだろうか? 大神が帰ってきてからと念を押すところをみると、そちら側は…… 「あの……捜索で……怪我をしたりは……」 「極力ないようにしようね」 「…………」  あやされた気分になって返事できないでいると、苦そうに微笑を浮かべて「怖い?」とさらに子供扱いするような言葉で尋ねてくる。 「そりゃ、オレに何かあれば雪虫がどうなるか……そのことが一番怖いです」  以前は発情したかどうかもわからないような発情期しか迎えなかった雪虫も、オレと出会ったことによって少しずつはっきりとした発情期を迎えるようになってきている。  それを考えると雪虫の心や体のことを最優先で考えるならば、オレはオレ自身の安全を確保しなきゃいけないってことだ。  雪虫に危害を加える奴らを許せない気はあるけれど、だからと言ってオレに何かあれば本末転倒になってしまう。  オレが一番守りたいのは雪虫だ。   「だからね、運命なんて厄介だろ?」 「これに運命って関係あります? 番になったのなら  」 「番になるのは契約だから」 「契約……」  そりゃ、番契約と呼ばれるけれども、実際はそんなビジネスライクな話じゃないはずだ。  子供を作るようなことをして、一生を縛り付けるって言うのに……ましてやΩは番を解除されると衰弱して亡くなるのだから、すっぱりと切り捨てていい話じゃない。 「そう言う関係もあるってことさ。だからと言ってぞんざいには扱ってはいないよ? 複数の番を持っているけれどこちらから契約を解除しようと言う気はないからね」 「う……」 「養えるのかどうかで問われたら、本人が必要だと言うなら十二分に援助もしている。金銭面では困らせてはないよ」    バランスのいい唇の端を上げて笑う姿は、オレが思い描いているαらしい態度と優越感を持っているように見える。

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