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雪虫4 62

「雪虫はっ! 自分の考えをしっかり持った……」  そう言い返そうとして、東条の表情にはっと飛び上がった。  にやりと口の端を上げる顔は端正で男のオレから見ても惚れ惚れするのに、瞳の中の光は憎たらしいほどきらりとしていた。  からかったことに対する謝罪だと東条が奢ってくれた焼き肉をたらふく食べて、一回り大きくなったような腹を擦りながらアパートへと戻る。    オレが焼き肉を食べたい! と言ったことに対して東条は驚いた様子も見せたけれど、素直にいいよと言ってたらふく食べさせてくれた。  たくさん食べられる? って聞くからてっきり安いところに連れていかれるとばかり思っていたのに、向かった先はちょっと……いや、だいぶお高そうなところだった。  東条がわざわざ予約までして連れて行ってくれたそこは、出される肉が本当に柔らかくて、なのにしっかりとした噛み応えもありつつ……でも蕩けるようで。  肉は飲み物なんだって言う気はないけれど、液体かもしれないと思ってしまう。 「お肉好きなの?」 「はい! 旨いです! ありがとうございます!」  行儀が悪いんだろうけど、ついがっついて食べるオレを眺めながら東条はやはり苦く微笑んでいる。 「雪虫は肉を食べないから、こんな時でもないとっ!」  また雪虫の名前を出してしまったことに呻きそうになりながら、それでも滴る肉汁のキラキラさに負けて次々と頬張っていく。  瀬能や大神もそうだが東条も、食事にと言って行った先がかしこまりたくなるような店なのはどうしてなんだろう? 「はぁー……くるし……」  ベッドなんてものはなくて、隅に畳んである布団に勢いよく倒れ込む。  スーツが皺になるとかいろいろ考えもしたけれど疲れと腹の張り具合に動く気になれず、もそもそと寝転がったままジャケットもパンツも脱いで放り出す。  はぁと深いため息と共に眺めたオレの部屋はがらんとしていてローテーブルと布団、あとわずかな生活に必要な雑貨があるばかりでよそよそしい。  うたの部屋に物がないのを見て主張がないと感じたのに、自分の部屋も大概なものだとその時初めて思った。  自分の生活においてこだわりはない、その分雪虫の部屋には自分にできる限りのこだわりで飾り立てて居心地よくしているつもりだ。  無機質でなく、暖かく、オレがいない間も寂しくないようにと整えてある。    それと比べるとこの部屋はホテルの部屋よりも味気なくって、「早く帰りたいなぁ」と自然と言葉が漏れた。 「う?」  雪虫の部屋の入った途端、疑うような? 訝しむような? 表情で雪虫が小さく唸った。  普段はにこにこと出迎えてくれるだけに、その表情はオレの脳みそを打ち抜く。

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