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雪虫4 64

「したのは大神さんであってオレじゃないっ!」 「そうなの?」 「……うん」  バレたら謝っても許してくれないだろうけど、まぁバレなければいいんだよ。 「そかぁ」  そう言うと雪虫はにこにこっと、まるで雲の切れ間から太陽が顔を覗かせるように満面の笑みを表して、オレにぴょこんと飛びついてくる。  すっぽりと腕の中に収まるのは馴染んだ体形と体温と香りで、すっきりとした冬に咲く花の匂いを肺いっぱいに吸い込むと、久々の胸を満たす幸せに勝手に涙が溢れてしまう。 「しずる、おしごと大変だった?」 「え? あー……うん?」  問いかけに曖昧な返事になってしまうのは、肉体労働と言うわけでもないし危険なこともなかったし、楽と言えば楽な仕事だったけれど……そこまで親しくないαと三日間行動を共にすると言うのは思いのほか神経をすり減らすものだったからだ。  ましてや、東条はαとしては優性が強いんだろう、意識的なものではないのだろうけれどプレッシャーと言うのか圧迫感と言うのか……そんな感じのものを浴び続けてくたくただった。  ……あとは、『野良』を見つけてしまったこと。  本人に自覚があるのかどうなのかは、今回本人に会えなかったから確認のしようがなかったのだけれど、オレの時を思えばそれを告げられた途端に人生がまったく違うものになってしまう可能性もあるわけだ。  人生の中で起こる確率の低い大事件の片棒を担いだような気がして、気が滅入るような感覚を引きずっていた。 「雪虫も、おしごとできるよ?」 「え?」 「しずる疲れてるから」  そう言うと雪虫はベッドの方にとと と小走りで向かい、腰をかけてから膝を叩いてくる。 「いやしてあげる!」  その行動はっっ!!! まさか膝枕⁉    恋人にして欲しいことの殿堂入りを果たしているアレ! アレですか! 「えっでも足が痺れるぞ?」 「へいき! 雪虫強いから!」 「ええーっでもでも   」  心では喜んではいたけれど雪虫の体のことを考えるとでもなーでもなーってなってたはずなのに、気づけば体は素直にベッドに転がって雪虫の膝に頭を下ろしてしまっていた。  雪虫の香りのするそこに横たわるだけで体力ゲージが何かを突き破りそうになる。 「足が痛くなったら言ってくれよ?」  と、注意を送るも……普段から体を鍛えておいてよかった とオレは力を入れた腹筋を撫でた。 「きもちいい?」 「うん、気持ちがいい」    雪虫の膝に頭の重さをすべては伝えないようにぎりぎりのところで堪えながら……    オレが出張に行っている間はうたが雪虫の面倒を見てくれていた。  セキがいればセキがしてくれるんだが、どうやらまだ帰ってきていない様子だ。

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