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雪虫4 65
どんだけ長いハネムーンなんだかってぼやきながら袋の中のお土産を見る。
日持ちのするクッキーにしたけれど、この調子じゃ賞味期限までに帰ってくるのか怪しい気がしてきた。
「あ! うた!」
「? ああ、帰ってくるの今日だったわね」
そう言うとオレの手の中のクッキーを見遣って「出張どうだった?」と尋ねてくる。
オレがどう言った理由で泊りがけで出かけたのか知っているうたは、どこか探るように瞳を揺らしていた。
「一人、見つけた」
「……そう」
うたの返事は簡潔でそれ以上はなかったけれど、表情は言葉以上に雄弁だ。
何を考えているのか、何を憂いているのか、そのことで塞ぎ込みそうになった気分を変えるために、袋の中の小さな箱を突き出した。
「土産」
「え⁉」
目の前に突然差し出されたカラフルな小箱に、うたは驚いて声を上げて一瞬固まる。
「なんか向こうで売ってたお茶」
掌サイズのそれは可愛らしく色がふんだんに使われたイラストが描かれた木の箱で、中身は紅茶だったかハーブティーだったか何かだったはず。
「私に⁉」
「雪虫が世話になったしな」
「えっ……でも……」
「クッキーの方がいいならクッキーもあるけど」
セキの分にと買っておいたものだったけれど、いつ帰るかわからないのなら食べてしまってもいいような気がしてくる。
「うぅん! これがいい!」
「おう、そうかよ」
六面に描かれた模様がそれぞれ違うせいか、箱をくるくると回すうたは小さな子供が積み木で遊んでいるように見えた。
どうだろうかと思いながら買ったものだったけれど、うたの様子を見るに嫌なものではなかったみたいで……あの殺風景な部屋に少し色が増えればいいなと思った。
土産の一口羊羹と茶を出してソファーに座ると、パソコン作業を終えた瀬能がやれやれと肩を回しながらやってくる。
「向こうで見かけて、おいしそうだったので買ってきました」
「君、こう言うところしっかりしてるねぇ」
そう言うと嬉しそうにいそいそと羊羹に手を伸ばす。
瀬能の見た目的にワインを片手にチーズでも食べてそうだったが、意外と好みは和なんだよなぁ。
「今回、東条くんと行ってみてどうだった?」
「疲れました」
「あはは」
「思ったより地味な作業でびっくりしました」
オレの素直な感想にうんうんと頷きながら瀬能は湯呑を両手で包み込むようにして持つと、茶の熱がじんわりと伝わるのを心地よさそうに堪能してから、「何事も一歩ずつだよ」と悟った顔で告げてくる。
「でも、じれったい感じもします」
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