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雪虫4 66
「確かにそうだよね」
ふぅふぅと熱いお茶に息を吹きかけている姿はのんびりとしたもので、それが人の一生……それこそ生死がかかるような話をしているようには見えない。
「どうしても後手に回っている以上はねぇ……何か事態が動かない限りはこのままだね」
「そう……ですか」
ってことは、またこう言う形で出かけなければいけないと言うことだ。
今回は比較的近場だったからいいものの、遠方になるともっと長く雪虫の傍を離れないといけなくなる。
それはっっやだ!
シンプルに嫌だ。
仕事だって言うのはわかる、大いにわかるがだからって雪虫の傍に居ることができないのは空気がないのも一緒で……
この世界は雪虫のために作られたし雪虫のために回ってるし、何なら雪虫のために滅んだっていいんじゃないかな⁉
いや、雪虫が不足するとオレが滅ぶ!
「だから、番離れしなさいよって」
「心を読まないでくださいよ」
ずず とのんきに茶を啜っているけれど、雪虫と長く離れる可能性があるって言われたオレはもう泣き出しそうだ。
「次回も東条くんが指導してくれる手はずになっているからね」
拒否権はないとばかりに言われてしまうと、オレの立場は弱いもので頷くしかない。
「そう言えば……東条さん、面白いですね」
「うん?」
瀬能が心当たりが多すぎるとばかりに首をひねって見せるから、両手を耳に添えるように上げてみる。
「あー! 面白いよね」
そう言うと瀬能も耳の傍に両手を上げてひらひらとするから……傍から見たらすごく不思議な絵図らだろう。
「共感覚だろうとは思うんだけれどね」
「直江さんのと同じですか?」
「うん、そうそう」
瀬能はその体勢のまま目を眇めてみせる。
直江がフェロモンを目で見ようとする時の行動だったけれど、手を上げたままするとますます異様な雰囲気になってしまう。
「それならフェロモンを味覚や触覚で感知する人もいるんじゃないかなって思うんだけどねぇ」
しょんぼりとうなだれる瀬能の姿は、その方面は全然研究が進んでいないんだと言外に告げる。
確かに、オレだって直江を見てなかったら半信半疑どころかまったく信じなかっただろう。
「そう言うのは遺伝なんですか?」
「多くはそうだよ」
「……そう、ですか」
認めたくはなかったけれど、みなわが以前に仙内は鼻がいいと言っていたことを思い出して……なんとも言えない気分だった。
雪虫を運命だと感じ取ることのできたこの鼻が、よりにもよって雪虫に酷いことをした男から受け継いだかもしれない なんて腹立たしいにもほどがある。
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