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雪虫4 67

 ふとみなわを思い出したことで共に思い出されたのは御厨のことだ。 「そう言えば、みなわは御厨さんのところに行ったんですか?」 「ん?」  軽く片眉を上げるようにして視線を逸らす瀬能は、「行ってない」と言いたげな様子だ。  自分をあれほど気にかけてくれている人に対して、みなわは随分と薄情じゃないかと苛立ちにも似たものを感じる。  お互い喧嘩を繰り返してその結果ボロボロになっての別れと言うわけではないのだから、少しでも情があるなら調子を崩した時くらいは優しくした方がいいんじゃないんだろうか?   「そうですか……」 「一度向かったらしいんだけどね、病室手前で引き返してきたようだよ」 「なんでだよ」  あと少しなら、勇気を出して見舞いに行けよ! って心の内が顔に出たらしい、瀬能は茶を啜って苦そうな顔をした。 「君は君で残酷だねぇ」 「え……何がです?」 「別れようとしているのに、ずるずる優しくして期待を持たせるのは残酷じゃない?」 「や、でもっ人間調子の悪い時って普段以上に落ち込むじゃないですか⁉ そんな時にはほんの少しでいいから優しさが救いになるのに……別に、以前のように抱きしめたりとか愛の言葉を囁けってわけじゃないし……」 「君、ホント傷口えぐるタイプだねぇ」  オレがつぎ足す前に、瀬能は自分で急須を取ってお茶を注ぐ。  立ち上がる湯気はふわふわとして不安定で、オレが瀬能の言葉をうまく飲み込めない心情を表しているようだ。 「そんなことしたら、まだ自分のコト好きなのかも……って思っちゃうだろう?」 「だって……好きだから離れようとしてるんだろ?」 「だから、別れる相手に好きなことがバレちゃダメなんだって」  好きなのに、別れなきゃいけない……それが、本人のためだから? 「相手の未練になるからですか?」 「そうだよ。ましてやみなわ君は一歩間違えていたら海の藻屑だったんだから、はっきりしっかりと悪い人として向こうが納得するような態度を取らないといけないんだよ。死んだ自分に相手を縛り付けるわけにはいかないからね。相手のことを思えばこそ……」  手の中で揺れるお茶の水面を幾ら見つめても、瀬能の言葉は理解できない。  いや、言葉としては十二分すごるほどわかるのだけれど、心の在り方として受け入れがたいと思ってしまった。  みなわはもうここで保護されているし、大神がみなわを処分してしまうようなことはないだろう。  それなら手を取り合ってよかったよかった……じゃダメなんだろうか?

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