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雪虫4 68

 すべてがいい方向に向かいました、めでたしめでたし じゃ……ダメなのか? 「とりあえず、御厨くんももう退院だし、こう言うのは外野がごちゃごちゃ言ってもどうにもならないもんだよ」 「え⁉ 早くないですか⁉」 「回復早かったよね、いつもはもっと長期になるんだけど、お守りなんだって持ってたあれのおかげかなぁ。心の支えだけじゃなくて、そこに染み込んでた番の香りが一助となったのかな」  瀬能は、自分の言葉に引っかかるものがあるとでも言いたげに、軽く肩を竦めてからもう一つ羊羹に手を伸ばした。 「何か気になるんですか?」 「ん。ああ、……御厨くんの番は決して愛情豊かな人じゃなかったから、そんなことあるのかと思っただけだよ」 「でも、御厨さんはあれに染み込んだフェロモンで落ち着いたじゃないですか」  そう言い返してみるも、そう言うんじゃない と言った御厨の言葉を思い出す。  番のフェロモンでないとしたら、あの袋に染みついていたのは他のαのフェロモンと言うことで……項を噛まれた御厨にその匂いを感知することはできないはずだ。  けれど、オレが匂いを足したそれを支えに、元気になったと言う……  どう言うことなのか? 「瀬能先生」 「はーい、先生だよ」  羊羹がお気に召したのか、ご機嫌に返してくれる姿に相談しようかためらってしまう。  できそうにもないことをしてしまったことに対してもだし、アレをもう一度してみせてくれと言われても再現できないかもしれない。  そんな事柄を、できたと言っていいのだろうか? 「……先生は、人のフェロモンをまねることってできると思います か?」 「できるよ」 「え⁉」  てっきり、フェロモンは個人特有のものだし、指紋みたいに偽ることのできない唯一無二なものだろうって思っていただけに、あっさりと返された言葉は意外だった。 「え……え……本当に?」 「まねるって言うか偽装するんだよね。他のオスを招くためだったり、相手を罠にかけたりするために」 「あ じゃあ、できて当然の能力なんですね」 「そんなわけないでしょー」  ははは と笑っていた瀬能の声が不自然に止まり、視線がちらりとこちらを見る。  こっち見んな と言ってしまいたくなる瀬能の視線は、昏さに満ちた狂気を含んでいるようで…… 「…………できたの?」 「でっ  でき 」  できませんっと叫んで逃げようとしていたはずなのに、ぎろりと睨みつけられたせいかオレの口から出たのは「できまひゅ」と言う怯え切った言葉だけだった。  腕に痛みは走るけれど……ただそれだけで、あの日の再現はできていない。  最初はワクワクとして見ていた瀬能も、あくびを噛み殺すようなしぐさまで見せるもんだから、うなだれて「すみません」と言葉を零す。  

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