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雪虫4 69

 あの時は本当に無我夢中でとにかく目の前の消え入りそうなΩを支えてあげたくて……  焼けた鉄球を握り込むかのような、じくじくした痛みを思い出すと身がすくんでしまって、うなだれるようにして瀬能を見る。 「……これ、大神さんもできたりするんですか?」 「彼? 彼はできないよ」  「彼は」とあえて言うところを見ると、できる人間を知っていると言うことか。  名前を出さないのは、他のフェロモンをまねるなんてことができるのを知られない方がいいから か? 「できるようになった方がいい能力なんですか?」  フェロモンを偽装できたとして、人間は虫じゃないんだからそれで何ができるとも思えない。  あの瞬間の体の感覚も決して気持ちのいいものとは言えなかったし、進んで使いたいと思うような能力でもないような気がする。 「できるに越したことはないかなって僕は思うよ」 「?」 「何が身を救うかわからないだろう? 知識と経験はなくすことがないサバイバルキットだからね」 「そんな究極的なこと言います?」 「人生何が起こるかわからないパンドラボックスだよ? 長ドス持った人に追いかけられるなんて思わないだろう?」  やれやれと肩を竦めてみせるけれど、この人いっつも追いかけられてるような気がするな。  何をやって追いかけられたのか ってことは聞かずにそっとしておくとして、年上の瀬能がそう言うのだから何事もできるに越したことはないんだろう。 「フェロモンって、どんなことができるんですか?」 「異性を惹きつけたり? 同性を惑わしたり? 支配、洗脳……なんだって」 「なんでも……」  嫌な物言いだと顔をしかめる。 「さて、この話はここまでにしようか。君はもう少しその能力について試行錯誤してみてね」 「……はい」 「さてと、本題だよ」  瀬能はため息交じりに言うと傍らに置いていたジェラルミンケースを引き寄せる。  何を取り出されるのかと身構えると、よくよく見慣れたガラスの小瓶がコトコトと机の上に並べられていく。 「いつもの、ですか?」  研究所に着た当初に散々させられた実験だ。  この中の瓶のフェロモンを嗅ぎ取って、誰のものか、発情期のものか、そうでないのか……をうんざりするほどやらされた。 「そう。今回はねぇ……」  そう言いつつ並べられていく小瓶の数はどんどんと増えていく。 「あ、あのっ数が多くないですか⁉︎」 「あー……できるよね?」 「それは別に問題ないですけど」  別にオレがすることと言ったら匂いを嗅いで、その香りの持ち主の性別と状態を告げるだけなのだから、否も何もない。  

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