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雪虫4 70
「いつもみたいに分けていけばいいですか?」
「ああ」
オレが小瓶を手にとっても、瀬能はまだカバンの中から出し続けている。
いったいどれだけあるんだか……
オレの鼻の精度を確認したいからと言うことでやらさせていた実験と同じと言うことは、またどこからかオレを採用するにあたって物言いがついたってことなんだろう。
そりゃ……ぽっと出てきた正体のわからない子供が瀬能の傍で助手として働いているんだから、面白くない連中にとっては面白くないんだろうってことはわかる。
まぁ、だからって、瀬能に引っ付いていくしかできないオレにとっては、こうやって時々させられる嫌がらせを黙々とこなすしかできることはないんだけどな。
「これ、これ、これ、これ、これ」
ぶつぶつと言いながら小瓶をいくつかのグループに振り分けていく。
オレから向かって左に寄せたのはβのフェロモンだ。
反対側はΩのフェロモンの入っているもの。
そして真ん中は……
「あれ?真ん中はどうしたの?」
「同じ人の物ばっかり集めておきました」
真ん中のグループは二つあって、それぞれに小瓶でグループを作ってある。
トラップのつもりなのか何なのか知らないけれど、同じ人間のフェロモンを複数個入れてあるなんて、悪意があると思ってしまうのは自分の考え込みすぎなんだろうか?
しかもご丁寧に年代をずらしたり、発情期までの日数を変えてあったりと小細工もされている。
普通なら、混乱するか、迷って困ってしまうところだろう。
「同じ人?」
「はい」
瀬能はさっとタブレットを操作して、瓶のナンバーと照らし合わせてふっと鼻で笑った。
「ああ、この子たちは姉妹だそうだよ。だから間違えたんだね」
「え⁉」
「この三人は姉妹、こっちのは兄弟だね」
さっと指示された先の瓶に飛びつき、さっとその香りを深く吸い込む。
わずかに鼻腔に残すようにした空気から感じる華やかな香りは……
それを残りも繰り返し、オレは瀬能に向けてしっかりと首を振って見せる。
「姉妹なんかじゃない。全部同じ匂いだ」
そうはっきりと言い切った。
オレのこの鼻は、オレが唯一誇れるものだし、オレが唯一頼りにしている自分の力だ。
それを疑う気はさらさらなかったし、疑う必要もない。
「4と15の人が姉妹でしょ? でも、この番号でまとめた瓶は、全員一人の人間のものだ」
「…………」
言い返したオレの言葉を、瀬能は咀嚼して飲み込んでいるかのようだった。
オレを見ているようで見ていない、考えに没入してしまった際の表情でぶつぶつと何事か呟くと、さっと携帯電話を取り出してもどかし気に操作をする。
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