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雪虫4 72
「仲間外れにされて拗ねてんのか?」
暗い部屋の中から問いかけられた言葉は、一瞬の思考を奪った。
テレビを消しそびれていたか?
いや、テレビはない。
ラジオ?
ラジオもない。
部屋を間違えた?
……いや、今、この鍵で開いた。
ざわっと熱のような悪寒が全身を巡り、中に向かって駆け出すのか部屋から飛び出すのか迷ったのは一瞬のことだった。
たった今くぐった玄関扉を開けようと力を込めるけれど、さっきまで軋みながらも普通に開閉していた扉は、まるで壁になったかのように動かず、退路が断たれたことを悟らせる。
「そんな驚くことはないだろう?」
暗い……昏い……そこからゆっくりと姿を現す男は、本物の幽霊のように見えた。
今、この瞬間害悪を纏って闇から生まれたと言われても信じてしまいそうなほど、男の目は陰鬱で鋭い。
「せっかくの親子の再会じゃないか」
親子……と口の中で繰り返そうとして、オレは咥内が干上がってうまく舌が動かせないことに気が付いた。
こちらにじっとりと這い寄るような気配に震えないようにするのが精いっぱいだ。
「ブギー……マン?」
「ははは、お前までそんな呼び方するのかよ」
この男が……オレを殺しかけたんだと、褪せない記憶が息を詰まらせる。
「まぁ言い得て妙だ」
仙内はそう言うと喉の奥で笑うようなくつくつと内に籠るような笑い声をあげた。
この男がここにいると言うのになんの騒ぎにもなっていないところを見ると、誰にも知られずにオレの部屋に忍び込んだと言うことだ。
「…………」
こんな状況で仙内に気づかれないように携帯電話を操作することはできるだろうか?
狭い入り口によろけたような形をとって仙内から死角を作り、尻ポケットに入れた携帯電話に触れないかと指を伸ばす。
「……っ」
この男は、あっさり人を殺してしまうことができる人間なんだ……と思うと、全身から汗が吹き出しそうだった。
「一体……何しに?」
「何……何をしに来たと思う?」
疑問を疑問で返されて、掴みどころのないそのやり取りは煙でも相手にしているかのような錯覚に陥る。
「オレ を、殺しに?」
「ははは、そんなどうでもいいことはしない。俺はこう見えて忙しいんだ」
「じゃあ、通行人Aってことだな」
「鼻たれ小僧が」
目の上の傷を撫ぜながら仙内はさっと視線をずらした。
その先には何もないはずだったけれど、オレから視線がずれてくれたのなら幸いだ。さっとポケットの中で操作をして、そのままそっと放り出す。
あとは気づいてくれた瀬能がここに味方を呼んでくれれば……
「 お前」
ちらりと視線がオレの項に動く。
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