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雪虫4 75

 うーん? と水谷と共に首を傾げるけれど、わからない人間が二人して悩んでいても問題は解決しなくて…… 「先生は何か思い当たることはあります?」 「……」 「先生?」  気難し気に歪んだ口元はいつものように軽やかに開きそうにはなく、オレの声も届いているのか届いていないのかわからないような状態だ。  水谷に視線を投げかけてみたけれど、水谷自身もお手上げなのか可愛らしく肩を竦め返してくるだけだった。   「じゃあぼくはこれでお暇するね!」  埒が明かないと水谷はタイミングを見計らって帰っていき、結局気まずいまま残されたオレは居心地悪く体を揺するしかできない。  手持ち無沙汰に仕方なくお茶でも入れるかとポットの方へ向かうと、後ろからぽつりと「他に何か言われた?」とか細い声がかかる。  いつもはきはきと喋る声が心細げに出されたせいか、一瞬意味を掴み損ねてしまって問い返してしまった。 「はい?」 「他に、彼は何か言っていた?」 「あ、大神さんが余計なことをしたってことと、オレも……モスナートにくるかってことと……」  最後の一つは喉に詰まるようで、不自然に言葉を途切れさせたオレを瀬能は訝しむような顔で見る。  例え だとしてもオレはそのことを言葉に出したくはなかったのだけれど、瀬能に説明するには言葉にするしかない。   「……雪虫が…………違うな、オレが雪虫を殺すって」  もご……と声が口の中に貼りつく。   「このままだとそうなるって、言われて  」  まるで刃物で切られたかのように、オレの言葉は唐突に終わって続かなかった。  今まで考えたこともない、……いや、体の弱い雪虫だからこそいつでもその可能性が傍らにあって、それに怯えるようにしていただけに「死」の言葉はオレにはたまらなく重い。  ほんのわずかな傷で寝込み、ほんの些細な寒さで熱を出し、治療をするための薬を受け入れられない雪虫。  少しでも気を抜くと自分の命を支えることすらおぼつかない雪虫に、その言葉はあまりにも荒々しい。 「このままだと、君が? 雪虫を?」  問い返してきた声は少し力強く、オレが言った言葉によほど驚いたのかそれまでの思考が飛んでしまっているかのようだった。 「ぜったい! ぜーったいにっ! そんなことはないんですけど、そう言われたことが気にかかってて  」  雪虫に殺されるなら本望だ。  だがその逆は天地がひっくり返ったとしても、ありえない話で……  オレは番である雪虫に手をかけなければならないような事態になったなら、まず自分を殺す。

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