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雪虫4 76
雪虫に危害を与えるものは例えそれがオレだったとしても許せない。
「どう言う意味だろうか?」
「わか んないです……何かの暗喩とか?」
とは言っても、何を暗示しているのかなんてさっぱりだから、瀬能が何か思いつくまで息を詰めるようにして待つしかない。
険しい顔のまま瀬能はさっとパソコンに近づいて何事かを打ち込み始める。
「モスナートの経典にそんなフレーズがあったかな……見落としか、解釈の関係だろうか?」
ぶつぶつ と呻くように考えが零れる。
オレが告げた言葉を探しているのだとは思うのだけれど、瀬能が何に引っかかって何を探そうとしているのかがわからない。
「原文をそのままニュアンスごと訳せる人がいたかな」
「あのっ何を探しているか教えてください! オレも一緒に探しますから!」
瀬能の探していることが、オレだけでなく雪虫にもかかわっていることは確かだ。
仙内が言ったわけのわからない言葉の真意を確かめるためならば、オレはわけのわからない宗教の経典だって読んでみせる。
「…………じゃあ、こっちを頼むよ」
そう言って瀬能が差し出してきたのは日本語に訳されて持ち運びやすいサイズにされているモスナートの経典だ。
随分と古いもので、使い込まれた痕跡はその本がどれだけ読まれてきたかを教えてくる。
「さっき、君が言った言葉に引っかかりそうなものがあったらすべて抜き出してくれる?」
「はい!」
番の命が脅かされるかもしれない。
嘘だったとしてもその可能性を告げられてしまった以上は、オレはオレにできることを全力でするしかない。
オレの未来は雪虫がいないと成り立たないし、そんないない世界線を考えるだけで発狂して暴れたくなるほどの怖さが胸の中を駆け巡る。
あの仙内が冗談でそんなことを言うなんて、ないだろうと思う。
大神に捕まればどんな目に遭うかわからないのに、わざわざその危険を承知で告げに来たのがただのジョークなはずがない。
オレが、雪虫を殺す。
吐き気を催すほど嫌悪感のある言葉が、脳裏にこびりついてシミのようにしがみついて離れない。
「そんなわけない。……雪虫はオレの運命で、番で 命で」
すべてなんだから。
オレは以前に、雪虫を亡くしたらどうするのかと聞かれて、半身を失っても生きてられる人はいないと答えたことがあった。
雪虫との関係を本当によく言い現わしていると思う。
オレは雪虫を守るためならば、自分を切り捨てることは容易だ。
オレが守り、慈しみ、愛しているのはこの世界で雪虫だけなんだから……
END.
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