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落ち穂拾い的な 仙内の距離

   ぎし と椅子を軋ませながら瀬能が背もたれに体重を預ける。  いつもひっくり返るんじゃないかって心配になるくらい反り返るから、思わず手を止めて様子を窺った。 「どうかな? 何かあった?」 「……いえ」  手の中の経典のページをパラパラと捲り、馴染みのない内容の連なる文字列を目で追う。    愛からすべては始まった  始まりは二人を産み  二人は子をなし三体となり  さらに地に増え四種と増えた  そして、時は満ちて第五の人が現れる  我々はそれを崇め奉り、暗き世に光をもたらす救世主のわずかな力とならん    わからん と、乱暴な言い方をしてしまえばそれが感想だった。  元々この世に神も仏もない……みたいに思っていたせいもあるのだろうけれど、正直に言ってしまうとだからどうした だ。  バース性の始まりを元にしていてΩを貴ぶと言う部分はわかるけれど、結局この宗教でもαが幅を利かせているらしいし、敬うべきとしたΩ達を大量虐殺したのもこの宗教のαだ。  オレにとっては宗教は遠いもので馴染のないもので、関係のないものだ。 「そうかい。仙内がわざわざ世間話のためにやってくるとも思えないし」  ずっと情報を漁っていたからか瀬能の目は赤くなっている。 「お茶、淹れますね」 「ああ、頼むよ」  まだ残っていた一口羊羹を出し、備え付けのポットで湯を沸かす。 「彼にとっても君に接触するのは随分とリスキーなことなはずなんだ」 「……はい」 「何せ、君の周りにも一応人員は配置されているんだからね」 「うぇ⁉」 「だから変なコトしてたら報告入るからね」 「変……なコトなんてしませんって」  知らなかった事実を教えられて、オレは思わずきょろきょろと周りを見回す。 「仙内が身近にいるとなると、もっと警備を厚くするか……」 「あ、でもそこまで近くにいるわけでもないみたいですよ」 「?」 「オレの首にある歯形を知らなかったみたいで……」  そっと首筋に手をやる。  手に触れる形で痕は確認できなかったが、そこには確かに雪虫がオレにつけた歯形があった。 「だから、もし近くをちょろちょろしているんだとしても、これが見えるような距離じゃないと思います」 「そうかい。まぁなんにせよ、直江君に報告はしておくよ、今回は何もなかったかもだけれど次回もそうとは限らないんだからね」  ちょっと真面目な顔をして言う瀬能はきちんとした大人のように見える。 「大神さんはまだ忙しいんですか?」  そう言いつつ差し出したお茶を受け取りつつ、瀬能は一言「ああ」と小さく返す。  大神の仕事が多岐に渡って、それにはオレが考えられないようなことも含まれるんだろうけど……自分の無力さを思い知ったような気がして俯くしかできなかった。 END.

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