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赫の千夜一夜 6
かつてはこれを怖いと思っていたこともあったんだ と、懐かしい思いを抱きながら指でつつくと、くすぐったかったのか大神の背中がわずかに揺れた。
「 大神さん あの、俺を一緒に連れてきてくれて、ありがと」
伸び上がってリンゴ味のキスをすると、セキは照れ臭そうにへへ と小さく笑う。
「足手まといにしかならないのに」
自分が居なければ大神はさっさと直江と合流することができただろう。
何日も宿に籠らなくてはならないようなことはなかったはずで、きっとそれは大神のスケジュールを大幅に狂わせてしまっているだろうとセキは知っていた。
「足手まといにすらなるか」
大神は馬鹿らしいことを言っている とばかりに鼻で笑い、さっとセキを抱き上げて椅子へと移動させる。
何をするのかときょとんとしているセキの目の前で、大神は思いのほかよどみのない動きでシーツを替えると何事もなかったかのようにセキを再びベッドへと戻す。
普段はそう言った雑事はすべて直江か自分が行っているだけに、セキは大神の行動が信じられなくてぽかんと口を開けた。
「なんだ」
「で……できるんですね……家事」
「あ?」
何を言っているんだと言う感情を隠しもしないまま大神は唸って、ベッドの上へと戻り壁に背中を預けてほっと溜息を吐いた。
「大神さん 」
一人ではそれなりと感じていたベッドも大神が入れば小さいように思えてしまい、セキはもそもそと膝の上に乗り上げてこのまま座らせて欲しいと視線で訴えかけてみる。
大神の表情は仕方がないと言いたげだったが、それとは逆に大きな手はセキの背に回されていて、何かを言う前にその行動を許してしまっている様子だ。
薄いシャツ越しにお互いの体温を感じると、今朝方まで激しくむつみ合っていたせいか触れる部分がざわりと熱を帯びてくる。
セキは薄い腹を擦り……いつもの発情期明けはここから流れ出る白濁の液をもったいないと思いつつ過ごすのに……と頬を膨らませた。
「他に要求があるのか?」
「要求ってなんですか! オレのはただのお願いです! してもらうまで言い続けますけどっ」
「それを要求と言うんだ」
珍しく大神は噴き出すように? 呆れたように? 言って視線を窓の方へと向けてしまう。
日本の空にはない青い……碧、藍、蒼い……深い、見上げれば落ちていきそうなほどの吸引力を持つ蒼天に大神の視線が釘付けになる。
空なんてどこも同じだろうと思っていただけに、旅愁を誘うと言うのか、胸の奥にしまってある懐かしいと思える感情を引きずり出す空のまばゆさに、大神はさっと視線を逸らした。
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