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赫の千夜一夜 13
避妊作用を併せ持った抑制剤を飲んでいない状態でナカに欲しがるのがどう言う結果をもたらすのか、セキがわからないままに言っているとは大神は思ってはいない。
自身との繋がりが欲しくて……もしくは、Ωの本能としてそう言っているのだろうと小さく溜息を吐いた。
小さく、脆弱で、華奢で、儚げで、か弱いこの生き物に翻弄されそうになる自分を律し続けてきたと言うのに……と、苦い思いを抱いたまま泣き続けるセキを膝に乗せる。
子供をあやすかのように胸にもたれさせながら、汗と精液を拭きとっていく。
「機嫌を直せ」
「別に、拗ねてないですもん」
内太腿を拭かれる際にわずかに体が跳ねたがそれだけで、セキは唇を引き結んだまま何も言わない。
いつもは大神が辟易するほど一人ででも喋っていると言うのに、しおらしく涙を零す姿は罪悪感を刺激し続ける。
長い睫毛に縁どられた両目から思い出したように溢れて落ちる涙は、窓から見える青さを吸い取って宝石のようだ。
それがぽろ と頬を転がり落ち、歯形と痕のついた胸に落ちて染みるように消えていく。
「直江と連絡が取れた。合流次第、薬を塗ろう」
いつもよりも弱弱しい声が出たことに大神自身が驚いて、続ける言葉を忘れてしまう。
どうしてこんな感情が沸き上がるのか、
どうしていつも通りの自分でいられないのか、
どうしてこんな浮足立つような気分になるのか、
自問自答しながら大神は窓を見つめて異国の空を見上げる。
染み入るような蒼さを持つ高い高い空は、人の心のわずかの隙間に入り込む力を持っているかのようで、大神は腕の中の小さなΩに言ってはいけない言葉を言いそうになって苦労して唇を閉ざした。
『あの日、アフターピルを飲ませたことを後悔している』
セキがそれを聞いたとして、どんな反応をするのか大神はわからなかった。
けれど、初めての発情を迎えたΩの着床率の高さを考えると、初めて触れたあの時に薬を飲ませなければ……
「 そうしていれば、今頃は……」
大神は真っ白なセキの項を見下ろして、過ぎたことを考える馬鹿馬鹿しさに呆れたようにタオルを放り出す。
「なんですか?」
「シーツを替えるのを待てばよかった」
そう硬く言ってからセキの頬を拭う。
あやすようにつむじに口づけ、大きな手を柔らかな肌の上に乗せて滑らせる。
「ん、くすぐったいです」
「痛むところはないか?」
「胸が痛いです」
鼻で笑うこともできたはずなのに大神はそうせず、ゆるゆると腕を撫でる手を胸へと遣った。
「そうか」
いつもより赤みを増した先端は触れると痛々しそうで、大神はそこを避けてゆっくりと擦っていく。
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