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赫の千夜一夜 17

 先に目を逸らした大神は幾度も見上げた窓を振り返る。 「……そうか」  口から零れるのはいつも通りのそっけない態度のもので、数日間に及んだ発情の相手としても、自分を丸ごと食べてくれと懇願された先としても物足りないものだった。  けれど、どこか途方に暮れた様子でセキを抱え直してもぞりとベッドに座り直す。  先ほどのように抱え込むわけでもない様子に、セキは返事が欲しくてすり寄った。 「ここ、すごくいい国だと思いません?」 「……」 「言葉がわからなくて、オレがヒートを起こして……なのにホテルに泊めてくれて」  ぽつぽつ話すセキに、大神は「そのためのホテルだから」と言いそうになって言葉を飲み込んだ。  セキの視線が動いて外に向けられたことに気づき、それを追いかけるように外を見る。 「日本で、なんとなく感じるオメガへの偏見ってわけじゃないけど、忌避感って言うか腫れ物に触れるような……嫌悪するような感じがないんです」 「……」  セキは言ってはみたものの、このなんとなく感じる程度のものを大神がわかってくれるとは思っていなかった。  理解しようとしてはくれているのかもしれなかったが、それでもそこに立ちはだかるバース性の違いからくる相手の空気の違いは、当事者にしかわからない微妙な感覚だ。 「それに、すごく……懐かしい感じがします」  初めて訪れる場所だったし、ホテルの部屋以外何も知らないと言うのに胸に溢れそうになる懐かしい感覚にセキはぽつりと嬉しそうに笑う。 「大神さん、   」  区切った言葉はふいに思いついたとでも言うような間があった。 「ここで暮らしません?」  馬鹿らしいとばかりに鼻で笑われるだろうとセキは覚悟していたのに、大神からの返事は返らない。 「いろんなことを放り出して、こうやってのんびりと二人で暮らすのも良くないです?」  甘えるような声音で言ってセキは揺るがない大神の首に手を回して抱き着いた。   「オレが働いて養いますから、大神さんは家の前のベンチでのんびり帰りを待っててくださいよ」 「あ?」  そこで初めて目が覚めたとばかりに大神は間の抜けた声を上げる。  セキはそれが返事だとばかりに嬉しそうに笑うと、強情な性格そのままの固い髭に頬を寄せた。   「暑い昼の最中、外に置いたチェアで大神さんがお酒を飲みながら寛いでて、オレが帰ってくるのを待ってくれてるんです。オレ、大神さんの好きな物を買って急いで帰ってくるので……」 「待て、どうして昼から酒を飲んでる」  物申すならばその前からだろうとは言えず、セキは「?」と首を傾げる。

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