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赫の千夜一夜 19

「わっ」  きゃあと甲高い悲鳴を上げることはなかったけれど、セキは声を上げてさっと身を縮める。  ほんの数日前に銃弾の飛び交う箇所から逃げた経験が、体からさっと体温を奪って震えを運んで……けれど自分を覆うように大神の背中があるのを見て、崩れてしまいそうな足に活を入れた。 「  動くな」  言葉は日本語だったが、妙な部分が跳ね上がるような喋り方だった。  大神は壁にセキを押し付けるようにして背後に庇ったまま、部屋へと雪崩込んできた男達をねめつける。  小さな部屋に飛び込んできた三人の男は……その服装からして一般人ではなかった、だからと言って強盗なのかと問われてもはっきりと違うと言えない姿だった。 「抵抗の意思を確認次第撃つ」  ヘルメットに各プロテクター、そして銃のホルスター……街中では安易に見ることのない完全武装したその男達は、本物だと確信させる黒光りする拳銃を大神へと向けていた。  三つの銃口を至近距離で突きつけられて、大神はむっと唇を引き結んだまま睨み返すしかできない。  取引先の人間かと思いもしたが、あの相手がこんなしっかりした装備を持っているとは思えず、大神はじっとリーダーらしき男を見据えた。  いい装備を身に着けている。  それを揃えで用意して、しかも手入れも行き届いている。  日本語が浸透し始めたとは言え、流暢に話せるほどの教育を受けていると言うことは?    わずかの情報を掬い上げるために、大神は努めて冷静であるようにと自分に訴えかける。  『人は生きているだけで名乗っているようなもの』  かつてそう言って人間観察の面白さを説いた教授の言葉がふと脳裏に蘇る。 「  警察か……」 「ミスター大神、あなたに拘束命令が出ています」 「……なぜ」 「そう、命令が出ているからです」  返された言葉が返事として正しくないことに大神は顔をしかめそうになった。  ふざけた返事をするこの目の前の男を殴り倒してやりたい気持ちを押さえつけながら、周りの気配を窺ってじりじりと両手を上げる。 「……わかった。命令に従おう」 「大神さ  っ」  大神は体の陰にセキを隠すようにすると、身じろぎに紛れるようにしてベッドの方へと押し出す。  それが何を意味しているのかをくみ取ったセキは、大神に縋りつきたい気持ちを押さえながらそろりと足を踏み出した。  セキは自分が居なければ、大神は囲まれる前に逃げ出すことも倒すこともできただろうと意を決す。ここにいることで大神の足を引っ張ってしまうくらいなら と、ドア以外の脱出口である窓へと視線を向けた。  建物の造りのためか、窓から見える景色は日本で飛び降りたことのある三階よりは低い。  飛び降りて……何とかなるだろうかとぐっと拳に力を入れた。  

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