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赫の千夜一夜 22

 長いその廊下を歩きながら、大神は目の前の只者ではない女が誰の元に自分を連れて行こうとしているのかを考え、顔をしかめるしかできない。  清涼な場所だと言うのに絡みつくように漂っている居心地の悪さ。  それは慣れない場所へ足を踏み入れたからではなく、ここが他の人間の……他のαの縄張りだからだと理解してのことだった。    幾つもの柱の並ぶ廊下を進み、女は一つの入り口の前で立ち止まると中へ入るようにと促す。  高い天井と大きく取られた扉のない空間、入り込む光が白亜を光らせるためか目が眩むほどに輝くその場所を見渡し、誰もいないそこに困惑を隠せないままに女を振り返った。    と、その瞬間、   「 ────大神さんっ!」  弾けるように名を呼ばれてさっとそちらに顔を向ける。  この状況で何か危害を加えられるとは思ってはいなかったが、曇りのない声を聞けたことにほっと胸を撫で下ろした……が、腕の中に飛び込んできたセキを見下ろして「あ?」と声を漏らす。  抱き締めようと腕が動く度にチャリチャリと細かな金属片が触れ合う音が鼓膜を叩く。  衣擦れの音を立てさせないほど柔らかで薄い布が翻って視線を奪っていく…… 「なんだ……その恰好は」  しがみつくセキが顔を上げると、それにつれて額に始まり爪先にまでつけられた飾りがまた音を立てる。 「わ、わかんないです」  泣き言のように返す言葉は困惑を隠せないままで、セキは困ったように自分の体を見下ろす。  整えられて色づいた指先に、体を隠すように……けれど官能的に見えるように露出もされた衣装、そして飾るところがないと思えるほどの宝飾品に化粧まで施されて、今のセキの姿は異国に溶け込んでしまっていた。  わずかにでも布がずれれば秘さなければならない部分がすべて曝け出されてしまうのではと思わせる服を押さえて、セキはぴったりと大神にへばりつく。 「いきなり体を洗われたと思ったら寄ってたかってこんな服を着せられて……」 「そうか」  香油の匂いなのか、南国の香りを纏うセキの背に手を遣って大神は女を振り返る。 「そろそろ説明をしてもらおう」 「それではご案内いたします」  女は真っ向から大神の言葉を聞いておきながら、何も言われなかったかのように優雅に指先を向かいの出入り口へと向けた。  整った美しい顔がアルカイックスマイルを浮かべ、一見柔和に促しているようだったが……それは有無を言わせないものだ。  見えもせず、音もせず、だからと言って存在しないわけではないフェロモンでの威圧感に、大神はセキを抱く手に力を込める。

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