159 / 425

赫の千夜一夜 24

 歩き出した大神の腕にセキはぎゅっとしがみついた。 「どうした」 「  っ、   や、あの。大神さんは……あの人  」  飾りの立てる音にも紛れてしまいそうな声だったと言うのに、Ωは気が付いたのか足を止めてにこやかに笑顔を浮かべている。 「わたくしはクイスマにございます」 「は……? あ、ええと、ありがとうございます?」  自己紹介をしてもらったのだから……とセキは礼を言うが、その言葉がこの場にふさわしいかはわかってはいなかった。 「ご案内してもよろしいでしょうか?」 「ああ、頼む」  大神は短くそう返し、セキの肩に手を回して歩き出す。  その動きは淀みすらなくて……   「お おお、がみさんっ」 「なんだ?」 「あ、の人っ美人ですねっ」  きつい声で言うセキに、大神は何のことだと思いながら怪訝な顔をする。 「ああ、そうだな」  そう言われればそう言う部分の分類に入る容姿なのだろうと、大神はクイスマの柳のような曲線を描く背中に目をやる。  こんなに光を弾く金髪があるのか? 本当に純金で作られているんじゃないのだろうかと思わせる豪華な髪色は確かに目を引く。紫色の瞳も珍しいものだ。顔立ちも寸分の狂いもなく神が手ずから作ったと言われたら納得できる造形だった。  もちろんそれだけではなく、気品を感じさせる優雅な動きも、弛まぬ努力で整えられた均整のとれた肉体もすべてが美しく、まるで彫像のようだと思わせる。 「き、綺麗、だと、思います?」 「そうだな」 「 ────っ!」  大神にしがみついているセキの腕に力がこもった。  セキが強く握ったところでびくともしない腕ではあったけれど、大神は理解できないセキの行動に唇を引き結んだままじっと見下ろす。 「大神さんの、好みのオメガですか⁉」 「何を馬鹿なことを言っている」  Ω同士、何か他のバース性の人間では嗅ぎ取れないやり取りがあったのかと警戒していただけに、セキの言葉は大神から緊張感を奪う。 「だ だって、美人で綺麗でっあんなにキラキラ、キラキラしてるんですよ⁉」 「光っていたらどうだと言うんだ」  クイスマの足が中庭に続く外廊下を進んでいく。  周りは沢山の花々と気で満たされていたが、その更に向こうには白い高い塀が見える。  自分たちがどんどんとこの建物の奥であり、逃げ出しにくい部分にまで連れていかれているのだと、大神はさっと辺りを窺いながら思う。  高い塀に、崩れた箇所はあるだろうか? と考え、大神は自分の思考がご都合主義になってきていることを鼻で笑う。 「な、な、なんで、笑うんですか⁉ あの人に向けて笑いました⁉」 「あ?」  そう低く唸ると、大神は懸命に首を上げてこちらを見ているセキを見下ろす。

ともだちにシェアしよう!