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赫の千夜一夜 28

 それでも夫を待ち続けている母。  組長の妻と言う立場を与えられながらも軽んじられて……  Ωは小さく、弱く、儚く、脆い。  脆弱で、守られなければ呼吸もままならないのではと思わせる華奢さと、今にも消え入りそうな存在感。  Ωは小さく、弱く、儚く、脆い。  渦のように巡り始めた思考の中で、大神は一つの言葉を拾い上げた。  Ωは小さく、弱く、儚く、脆い。   「  いや  オメガは、力強い」  虐げられ、弄ばれ、搾取され、αだけでなくそれ以外の性の人間からも侮蔑の目で見られてきた彼らは……けれどそれでも、真っ直ぐに顔を上げてしなやかに強く生きていける。  何を言われようともしゃんと背筋を伸ばして俯くことのなかった母の姿を思い出し、大神は繰り返した。 「オメガは、守ってやらなければならないような存在ではないし、ましてや他人にどうされるかを委ねなければならない存在ではない」  Ωは小さく、弱く、儚く、脆いと思っていても、しなやかに、したたかに、強く、生命力に溢れ……  生き生きとした表情で自分を見返し、いつもいつも驚かせ、感情を揺さぶってくる存在だ。 「どうするのか決めるのは本人だ」  フェロモンにあてられてぐらぐらと揺れる意識の中でも、大神ははっきりとそう返した。  カーテン越しに感じるセキの縋りつく腕の感触を感じながら、真っ直ぐに王へ向けて視線を投げる。  自分が支配者であると理解している立ち居振る舞い、そしてそれが不自然とは思えないほどその男は王なのだと理解させられる雰囲気。 「よかろう」    パン と軽い音が響いた途端、周りを幾重にも取り囲んでいた紗の布がさっと取り払われて、砂漠の国だと言うのにひやりと感じる風が吹き抜ける。  大神を苛んでいたフェロモンもそれに吹き飛ばされて、肺に入り込むのは清浄な空気だけだった。  は と初めて息を吸い込んだかのように大神は大きく胸を震わせて呼吸をすると、倒れまいとして膝に手をつく。 「大神さん! 何があったんですか⁉」  背中を擦るセキの声が耳に入り、大神はそこで初めてセキの声すらわからないような追い詰められた状況だったのだと理解する。 「何かされたんですか⁉」  幸い、セキには先ほどのフェロモンは影響がなかったようだと、ほっと胸を撫で下ろして大神は王へと向き直った。  青い……蒼い空が良く似合う姿だった。  紗がすべて取り払われたためか、大きな開放感のある窓からたっぷりと風が入ってくる。  砂漠の国は暑いものだとばかり思っていただけに、吹き込んでくる涼しい風の存在に二人は驚いたように立ちすくむ。

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