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赫の千夜一夜 33
「俺っこれ被ってるからこのままでいいです!」
きっぱりと断るセキに三人は驚いた様子も見せず、何事もないかのように微笑む。
「普段の服もご用意しておりますので」
にこにこと柔和な笑みで言われ、大神は顔を曇らせた。
自分に用意された服がそうだと言うことはセキに用意された服も同じものと言うことで……直江が意気込んで大神のために作らせたスーツと同じものを用意し、それだけでなくこまごまとした身に着ける物すべて同じものを用意してみせたその真意は?
大神個人の情報がそこまで把握されていると言うことは、セキのそれも同等だろう。
「……着替えて来い」
セキを手放す不安はあったが乱れてしまった服装で他のαの目の前に座らせるのも業腹だった。
「でも 」
「きちんとした服を着て来い」
そう言って押し出すと困ったような顔のままセキは立ち上がり、大神の方をちらちらと見ながらも「大神に言われたから」と三人の方へと近づいていく。
「俺も行ってくる!」
そう言うとハジメはセキの傍に駆け寄り、不安そうなセキを囲って部屋を出て行ってしまった。
華やかな衣装も相まってか、そこにいるだけで場をにぎやかしていた存在がいなくなると、装飾の施された流麗な部屋にいると言うのに酷くうら寂しい雰囲気になる。
「取って食いはしないよ」
五人の消えた後を見ていたためか、王の笑いを含んだような声に大神ははっと姿勢を正す。
大神がルチャザ国について知っていることは多くはなかった。
ただ以前に瀬能からΩを重要視している国だ……と言うことは聞いたことはあったがそれくらいで、その国の成り立ちやどう言った営みをしているのか、どう言う気風なのかはさっぱりだ。
セキが眠っているうちに食料と共に収集した情報では、モナスート教を国教として共通語はエスペラント語を使われてはいるが年代によってはスペイン語やフランス語の方が堪能だったりする。
それはその時代の王がどこの言語圏から王妃を娶ってくるかによると言う。
そして、当代の王は日本からΩを娶ったのだと……
「……番さまと、セキの関係をお聞きしてもよろしいでしょうか」
慎重に一歩踏み出すような言葉は尋ねかけてはいたが、駄目だと言われたらあっさりと引き下がる雰囲気だ。
「私が調べた中にセキに兄はおりません。……二人は…………」
ぽっかりと開いた部屋の入り口は吹き込む風で垂れ下がった紗が翻り、異界への道のように見える。
肌もあらわな格好をさせたくなかったために着替えるように言ったが、早まっただろうかと不安を覚えさせるような美しさだった。
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