182 / 425

赫の千夜一夜 47

「準備ぃ、しておいたら……朝勃ち、即突っ込んでもらえるかと、思ってぇ」  額に寄りそうになった皺をぐっと我慢して、大神は大きな手ですっぽりとセキの起立を包む。  驚くほど熱い手に包まれてセキの体が跳ねたが鋼のような腕はそれを許さずにしっかりと抱え込んだままで、まるで拘束具のようだった。 「ひゃ おおが み、ひゃ  前、まえぇやらっまえだけ、やらぁ」  武骨で厚い手の皮が掠るように敏感な先端を擦り上げていく感覚に、セキはジタバタと注射を嫌がる子供のように逃げ惑う。 「黙れ、少し反省しろ」 「ぅ゛ らってぇ  」  ぐずぐずと鼻を啜りだしたセキは大神が与えてくる快感から逃げ惑いながら、ぽとりぽとりと涙を零して「だってだって」と繰り返す。 「ゃぁ……っ!」  暴れていた体が一際大きく跳ねて声にならない悲鳴が響き渡る。  詰めた空気が緩まるころには大神の掌はびしゃびしゃに濡れて、セキの荒い息遣いだけが鼓膜を揺らしていく。 「少し頭は冴えたか?」 「っ  まだ、ですっ!」  泣きじゃくりながらしがみついてくるセキを抱きとめ、大神はやれやれとばかりにその背中を撫でてあやす。  いつも静かにしろと言いたくなるほど元気にはしゃぎまわるセキだったが、さすがに度の過ぎた様子に大神は「どうした」と問いかけた。  達した快感と、それを無理矢理行われたと言う事実とに恥ずかしさに顔を上げられないセキはうつむいたまま、「綺麗でしたね」と言葉を漏らした。  大神の問いかけに「綺麗でしたね」は答えとしては不十分すぎて何を答えたのかわからない。  幾つか綺麗だったものを思い返しては見るが、この宮殿自体がすべて華美なもので飾り立てられていたのだから、取り立ててどれを美しいと言うことはできない。  一見シンプルに見えるこの部屋だとて、よくよく見れば細かな部分に意匠をこらされたものがふんだんに使われている。 「そうだな」  砂漠の国、宝石を携えたアラビアンナイトの物語を思い出して大神はそう言って窓から差し込む明かりがわかる方へと視線を向けた。   「  やっぱり、ああ言う人が好みですか?」  よしよしと宥めていた手がぴたりと止まる。  大神を見上げるセキは今にも涙が零れそうなほど両目を潤ませ、顔は発情が理由と言うだけでなく赤く染まっていた。 「クイスマさん」 「クイスマ?」  名前を出してもはっきりと顔を思い出すことはできなかった。  やけに重そうな装飾を身にまとっていたことと、首の傷の印象は残っていたがそれだけだ。  大神の中でクイスマは案内人と言うだけでそれ以上でもそれ以下でもなかった。    

ともだちにシェアしよう!