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赫の千夜一夜 53

 わけのわからない話し方は素なのだろうと観念しつつ、大神は王の次の言葉を待つ。 「この城は稜堡式城郭と言う様式で建てられている」  告げられた言葉に神妙に頷いてみせるも……それが何かと言われたら説明することはできない。 「ああ、星形をした城と言うことだ」 「星……つかたるにある城郭跡地も確か……」  言い直された言葉でやっと腑に落ちる。  つかたる市にある海に面した城はその形から星の城と呼ばれているのは、大神でも知っていることだ。 「移築されたものだと聞いています」 「そう。元の城と設計者が同じなのだ」 「そうですか。知りませんでした」  大神は酒がちりちりと喉を焼いていくのを感じながら、長い歴史の中でそう言ったこともあるだろう程度の感想を持つ。  まったく繋がりがないと言うわけではないのだろうが、だからと言ってこの場で出す話なのかと問われればそれは疑問だ。 「どうしてあの地だったのだろうか?」 「わかりかねます」  さっくりと返した大神に、王は笑いながら酒を継ぎ足す。 「いや、どうして君達はあの地に研究所を作ったのか?」 「?」  さっきまでしていたのは城の話だったはずだ。  それがいつの間に研究所の話になったのか…… 「……統計的に、あの地のオメガは平均寿命が長いそうです。気候風土なのか理由は定かではないと聞いたことがありますが……瀬能先生としては、わずかでもよい環境を用意したかったのだそうです」 「なるほど」  ぽちゃん と、再び注がれてしまった酒に視線を落とし、一国の王があの研究所に興味を示す理由を考える。  確かにこの国は他国よりもΩの待遇に気を使っているとは言え、国のトップが直々に出てくるような話ではない。  また何か言いたくもないことを言わされるのかと唇を引き結ぶ。 「それは、オメガの祝福の賜物だ」 「……はい?」 「ドクター瀬能から聞いたことは?」  彫刻のような顔立ちをにやりと歪めて王は尋ねてくる。  大神は記憶を手繰ってみるが、そんなことを言われたかどうかは思い出せない。瀬能がぶつぶつと語る中にそう言った話があったのかもしれなかったが、聞く気のない大神にとってはただの雑音だ。  一生懸命説明したつもりになっているだろう瀬能には申し訳なかったが、大神は緩く首を振って返すしかできない。 「オメガは人生で一度だけ、心から望んだ際に奇跡を起こせるのだ」  軽やかな調子で言われ、大神はこの国では宗教が幅を利かせていたのだと思い出して顔を歪めそうになる。 「そう言う伝承があるのでしょうか」  できるだけ素っ気ないようにはならないように努めたが、結果は微妙だった。

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