「その恰好で行かれるのはお勧めしませんが……」 　苦笑と言うよりも少し戸惑った表情でクイスマが言い、セキの恰好を見て小さく肩をすくめる。 「あっあのっこれはっ」 「まずお着替えをお手伝いいたします。こちらへどうぞ」 「えっと……ありがとうございます」 　ぎゅっとシーツを握り締めて、改めて自分が下着もつけずに城の中を歩き回っていたのだと気づいて、セキは顔を赤くした。 「こちらなどいかがでしょう？」 　さっと差し出された衣装は驚くほど眩しい鮮やかな緑色で……セキは目を瞬かせながら丁重に押し返す。 「あの、もっと楽な感じの……Tシャツと短パンとかないでしょうか……」 「ぁ……」 　クイスマの困ったような表情が、暗にないと告げる。 　 「ではこちらはどうでしょうか？」 　触れるのも怖いほど、薄い布に繊細な刺繍がびっしりと施された服もそっと押し返す。 「じゃあ、部屋に戻してもらえたらスーツがあるので……」 「でもそちらは着終わったものではありませんか」 　着終わったと言っても、王とあって部屋に戻るまでしか着ていないもので、セキの感覚ではもう一度身に着けても問題のないものだった。 　けれど、クイスマの本当に困ったと言う表情はそれを許してくれなさそうだ。 「もっと、シンプルなものが……いいです」 「ハジメと言いミスターセキと言い、そんなに着たくありませんか？」 　次にさっと体に当てられたのは覗き込めそうな不思議な光沢を持つ青い布で作られた衣装だ。光の具合で表面がちかりちかりと光を弾くそれは、今まで見たどの布よりも美しい。 　けれど、それを身につけるのはまた別の話だ。 「な、慣れないので……」 「この気候ですから、その土地の服が一番過ごしやすいんですよ」 「そうかも……ですが」 　クイスマは歯切れの悪いセキに苦笑を返して、これならば　ともう一枚出してくる。 「こちらなら、今までのものよりも落ち着いているでしょう？」 　目の前に広げられたのは黒……ではなく深い赤色の服だった。 　滑らかで光沢があるが先ほどの青い布のようにチカチカとした光り方ではなくしっとりと柔らかく光り、その奥に時折繊細に織り込まれた模様が見え隠れする。 　深い色味のせいか見ようによっては黒く見えるが、決して喪服のようなマイナスな印象を与えない色合いだ。 　 　その深さが、時折見せる大神の硬質な雰囲気と似ているような気がして…… 「これなら　　」 　ついそう口に出してしまっていた。 　ぱぁっと弾けたように笑顔を見せたクイスマは慣れた手つきでさっとセキの体にその布を宛がい、金色の装飾具で留めていく。