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赫の千夜一夜 58

 昼間は化粧で隠したけれど今はそれもすべてはがれてしまっているために、体中についたそれは随分と酷い乱暴をされた痕に見える。 「お兄ちゃん! これは乱暴されたわけじゃないから!」 「いやっこれは絶対暴力だろ!」  胸元を掴んで引っ張ってくるから、セキは大慌てで服を押さえて後ずさった。 「これはっ! 大神さんの愛の証なんだもん!」  ぷくっと頬を膨らませて叫ぶセキに、あっけにとられたのかハジメはぽかんとした顔をする。 「いや……あかはさ、お母さんがその……あんな感じだったから、ちょっと感覚がずれてるんだよ」  言いにくそう と言うか、苦い哀れみを混ぜた表情はセキの生い立ちを知っている者だけが出せる表情だった。  小さな子供が冬の日に半袖で玄関の外に何時間も放置されていたこともあった、玄関ならまだいい方でベランダ側に出されていた時はそこから逃げられず、風を避ける場所もなく、日差しを避けるものもないままぐったりとしている姿を何度も見ていた。  ハジメは、手を差し伸べることができる時はしていたが、それも家の中に入ってしまえばできなかったし、何より自分の弟達の面倒を見ている中ではできることが限られてしまっていて……  気になりつつも全力で守ってやることのできなかった後悔はずっとハジメの心に燻り続けていた。 「や……でもオレ、随分ちゃんと生活させてもらってるし。ほら、肉もだいぶついたでしょ?」 「まともな奴は殴って連れて行かないし、こんな体にすることもない。ご飯食べさせてくれるだけがいい人の基準じゃないからな⁉」 「ちゃんと働かせてくれてるし!」 「はた  ……それ、どんな仕事だ」  さっと表情を硬くして、ハジメはセキに掴みかかる。 「え? 大神さんの生活の世話したり?」  直江がいままでやっていた大神の身の回りのこまごましたものが主だったが、それ以外にも仕事中毒気味な大神をベッドに引きずり込む役があった。 「眠れるようにしたり?」 「はぁ⁉ そんなの仕事じゃないだろ⁉ って言うか、ちゃんと給料もらってるんだろうな!」 「…………」  ぽかん と宙を見つめたセキをハジメがガクガクと揺さぶる。 「それは仕事じゃなくて、ただ働きって言うんだ!」 「いや、でも、生活には困ってないし……」  大神が何かしら着るものは揃えてくれているし、大神と共に行動する時は食事も一緒だから負担したことなんてない、何かいるものがあれば直江に言っておけば十二分なものが用意されている。  それにちょっとした時には駄賃的にお小遣いも貰えて……

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