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赫の千夜一夜 60

「ありえないだろ……ベータが妊娠とか……」  呻くように言うとハジメはシモンが持ってきたハーブティーを受け取り、口をつけないままぎゅっとカップを握り締める。 「ど、どう言うこと⁉ ……あ、バース性が間違ってたとか……」  一国の王の伴侶について、その検査が間違えているとは思わなかったが、自分で考えられる最大限の可能性として挙げた言葉は、あっさりと首を振られて終わってしまう。 「どう言うことかは……俺が一番知りたいよ」  先程まで飛びかかるようにして話していた様子から一変してしまった雰囲気に、セキはおろおろと立ちすくむ。  自分ができることはないかと探してみるも、ハジメの周りにはクイスマを始めとした三人が甲斐甲斐しく立ち回っているために、何もすることがなかった。  世話になった相手が追い詰められたような表情をしているのに何もできない無力さに、ぎゅっと唇を噛む。 「……お兄ちゃん」  再会するなりとんでもないことを言い出してきたけれど、それでも幼い頃から面倒を見てもらって、命が危ぶまれる時には手を差し伸べてくれた恩人でもあるハジメに少しでも寄り添いたくて、その隣に腰を下ろす。  小さい頃は抱っこされたりして随分と大人な印象ばかりだったけれど、目線が揃った今、項垂れるようなハジメは心細そうに見えた。  クイスマ達のように気の利いたことはできないけれど、家から放り出されてうずくまっていた自分にハジメがしてくれたことならできる と、セキはハジメをさっと抱き締める。 「ごめんね、どうしてなのかとかそう言ったことはわかんないんだけど、お兄ちゃんが不安なんだろうなってことはわかるよ」 「…………」 「オレが不安だった時、お兄ちゃんこうしてくれたよね」 「……はは、それくらいしかできなかっただけだけどな」  震えるような苦笑で返すハジメにセキは更にぎゅっと抱き着いた。 「それがすごく力強くて、安心できて、嬉しかった」  更にぎゅっと頬を押し付けて「ほっとしたんだ」と言葉を零す。 「…………なに、一人前なこと言ってるんだよ」  苦笑はまだ消えないけれど、セキをしっかり見る目は先ほどまでのようではなかった。 「一人前……にはなってるよ!」 「ああそう」    ぷぅっと頬を膨らませて言い返すセキにハジメはやはり苦笑のままだったが、先程よりも笑顔が多いように思う。  膨らんだ風船のような頬をつつくと、セキは赤ん坊がむずがるように首を左右に振って逃げようとする。 「流弐と同い年のクセに何言ってんだか」 「同い年でも一人前は一人前でしょ?」

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