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赫の千夜一夜 63

「里帰り? 出産? ってしないの?」 「向こうに帰っても、やっぱり親とは連絡取れないままだし、流弐に面倒かけるだけだから」  そう言うものの、ハジメはやはり浮かない顔だ。 「……あかのお母さんは? どうしてる?」  「さぁ?」と返そうとしてそれが正しい返事ではないことに気づき、セキは困った顔をして首を緩く振ってみせた。  本当の気持ちを言うとハジメをがっかりさせてしまうだろうと思ったからで、セキは話を出されて初めて母がどうなったのかを考えて……けれど長く思考を続けることはできずに終わる。  母は、セキを借金の代わりに差し出したのだ。  それはセキと大神を結び付けたできごとだったし、少しでも大神の行動が遅かったならセキはここにいなかったと言うことでもある。  大神達が探している、他のΩ達のようにどこかに消えておしまいだったと言うことだった。  ネグレクトの上に自分をああ言う形で切り捨てた母に対して、セキはしずるのように気を砕く気持ちはさらさらない。  大神に頼めば行方を教えてくれるだろうが、一度も問いかける気が起きなかったのはそのせいだ。 「そ か」 「たぶん、新しい恋人のところかな。オレがいないのに気づいてないかも」 「そん な、そんなことないだろ」  冷たいように思えただろうかと言う心配が一瞬、頭をよぎったけれどどうしても譲れないことがあるのだ と、セキはあえて何も言い訳はしなかった。 「親は……俺の親もいるのにいないようなものだったのは知ってるだろ?」 「……うん」  宗教の布教だと言ってハジメの両親が家を空けることが多いことは知っていたから、セキは黙ってうなずく。  自分の母親と比べてずいぶんとしっかりした印象だったけれど、そうか……と幼い頃の考えを塗り直す。  理由が問題じゃない、ハジメ自身も自分のように放置されて過ごしたのだと、なんとも言えない気分になって口を引き結んだ。 「親 が、どんなものか わからない」 「お兄ちゃ  」 「親ってなんだ⁉ どうすればなれる⁉ 俺は……子供への接し方がわからない!」  声を荒げたハジメをさっと抱き締めて、昔ハジメがしてくれたようにその背中をぽんぽんとリズミカルに叩く。  セキ自身、親がどう言ったものかと問われたら、背中を向けるものだ としか返せない。けれどだからこそ、ハジメのこの子供との接し方がわからないと言う思いもよくわかって…… 「……」 「それなのに、産んでどうする……」  ハジメの呻くような声にクイスマ達がさっと顔色を変えて息を飲む。  

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