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赫の千夜一夜 64

 しがみつく腕は先ほどよりも強い力だ。  軽率なことならいくらでも言える。けれどそれがこの国の次代を担う存在を消してしまうかもしれないと言うことに、セキはぐっと口を引き結ぶ。 「本当なら、オメガでもない俺がここにいること自体がおかしいんだ! 本当なら子供の産めない俺が妊娠したことも! ……あかみたいなオメガが嫁ぐべきなのに  」 「そ、そんなことないよ」 「そうすればこの子も無事産まれてこれるだろうに!」  クイスマ達が息を飲む中、叫んだ言葉が弾けて消える。  庇うように腹を押さえて泣き出したハジメを宥めるように撫で、セキは肩にそっと頬を押し付けた。   「……それが、一番なんでしょ?」 「なに……」 「赤ちゃんが無事産まれますようにって部分」 「…………そんなの、普通だろ……」  項垂れるハジメは泣き止んでいない。 「普通じゃないよ。お兄ちゃんには…………」  あまり言いたくない言葉だったから、セキは続きを話すのをためらった。  クイスマ達がいるとは言え、いざとなればその腹の中の子供をどうにでもできたはずだ。 「でも、そうしなかったって言うのは、もう親だからじゃない?」 「ちが……こんな中途半端な体から生まれる子が不憫なだけで……」 「だから、自分のことより子供の心配ばっかりしてるんだって」  ずず と鼻水を啜りながらハジメが顔を上げる。 「お兄ちゃんは、もう立派な親だよ」 「ちゃんと産んであげられないのに⁉」  セキは一瞬、室内に置かれている青いランプの方へと視線を遣って、その光を見つめながら物思うように瞬きを一つ繰り返す。 「産んであげられるから大丈夫」  ぱち とウインクするセキの瞳がきらりと青い光を弾く。  年上の出産経験があるのならばともかく、弟と同い年で子供を産んだこともないセキに言われてハジメは一瞬むっとした。  むっとしたのに……どうしてだかキラキラと自信いっぱいに言う姿を見ている内にそんな気持ちも萎えてしまう。 「なんでそんな自信満々なんだよ」 「んふふ、だって、そうだから!」  セキが弾けるように言うから、ハジメはますます毒気を抜かれてしまって……  自分がまた取り乱してしまったことに気づいたのか、恥ずかしそうに身をすくめてしまう。 「ハジメ……」 「あ、ごめん……変なコト言っちゃったよな」 「いえ、構いません。ハジメの不安はすべてお話しください、例えどんなことでも」  ハジメの前にひざまずいて、クイスマはハジメ以上に不安で泣きそうな顔をして懇願する。 「うん……ありがとう」  クイスマ達は話をしっかり聞いてくれるだろうけれど、王に仕えていると言う立場上何かあれば王へ報告しなければならない。  だから、すべてを言いきってしまうわけにはいかなくて……  

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