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赫の千夜一夜 65

「このタイミングであかが来てくれて、本当に良かった」 「オレ、役に立ってる?」 「うん」  ずず と鼻水を啜りながらハジメが顔を上げると同時にカイが部屋へと戻ってくる。いや、戻ってくると言うにはいささか勢いがありすぎて、もう少しでつんのめって倒れ込んでしまう寸前だった。 「た、大変です!」  大きく肺を膨らまして荒く呼吸するカイはハジメとセキに向けて口をパクパクと動かす。 「  duelo de silento……」  ぽそりと零れた言葉にクイスマがばっと駆け寄る。 「何をしているって⁉」 「duelo de silento!」  シモンがさっと顔色を無くして、狼狽えてハジメの方を見る。明らかにおかしなことが起こっているのだと告げる行動に、セキとハジメは顔を見合わせてから緩く首を振った。 「duelo de silentoって何?」  ハジメが問い直すと、クイスマが険しい表情のままセキの方にちらりと視線を遣る。 「あ……」 「大神さんにも関係することなんですか⁉」  自分の方を見た瞬間ピンときて、セキはさっと周りを見回してから走り出した。  王と話をしていると言われていたけれど、昼間の様子を見ていたらそれが穏やかなものでなくなる可能性は十二分にあった話だ。  セキは駆け出しながら先に大神の元へと行くべきだったと、深い赤の衣を邪魔に思いながら駆けていく。 「  ──── お待ちください! 陛下は中庭にいらっしゃいます!」 「なか……にわ……?」  さっと目の前の回廊の中心に目を遣るけれど、目立つような人影は確認できない。 「  っ」  とっさにすんすんと鼻で匂いを嗅いで……セキは走り出して欄干から身を乗り出す。 「大神さんの匂い……」  その先に見えたそこは最初に身支度を整えさせられた宮殿と渡り廊下で繋がっているところだった。  白亜の柱が立ち並んで……その奥が眩しい。  飛び降りられるか? と体を乗り出した時、 「お待ちください! ご案内します!」  カイが駆け寄ってきてセキの肩を掴んで大きく息を吐く。 「duelo de silentoって何ですか⁉ 話をしているって言ってましたよね⁉」 「duelo de silentoは……決闘のことです」 「……は?」 「古くからルチャザにある、オメガを取り合うアルファ達が行う戦いです」  真剣な表情で話をしてくれていたが、その半分も理解が追い付かなかった。  セキは決闘と言えば刃物を振り回して、どちらかが降参するまで血みどろに……と言うイメージしかない。  もしかしてそんなことに大神がまきこまれてるなんて……と城を走り抜けながら胸が痛むのを感じた。  

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