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赫の千夜一夜 66
足の裏が痛いと言うよりも冷たいと言う感覚で、つられるように全身から体温が抜け落ちていく気がする。
他国の人間だけれど、王族と騒動を起こして無事でいられるんだろうか?
嫌な予感に額がぐっしょりと汗で濡れている。
「 ────大神さんっ!」
セキが二人を認めて叫んだ時、汗でてらりと光る大神の体が大きく傾いだ。
ひっと喉に詰まるような悲鳴をあげて駆け寄ろうとすると、さっと傍の兵士が邪魔をする。
日本ではお目にかかれないような鎧を身につけた兵士だ。
「お控え くだ さい」
少しイントネーションのずれた喋り方だったけれど、聞き取れないと言うわけではない。
「そん ……大神さんっ!」
兵士の手はセキを通そうと言う意思は一切見せずに、頑固に立ちふさがったままだ。
飛び出そうにも壁になられてはどうしようもできず、カイに視線を遣るも首を振り返されるばかりだった。
「duelo de silentoは王族が行う神聖な決闘です、邪魔をすることはできません」
「お、王族だって言うけど、大神さんは違うから!」
「だからです」
「な……なに……」
バシ と鋭い音が響いて、セキは飛び上がるようにして大神の方へと振り返る。
優雅な とは程遠い格好で、二人の男が睨み合っていた。乱れて茶色い汚れのついた真っ白だったトーブに似た衣装を着た王は、飾りはすべて外されているか吹き飛んだかしている様子だ、大神はぴたりと合ったスーツを着ていたはずなのに、上着はすでにないしシャツも足元に脱ぎ捨てられて踏まれてしまっていた。
大神が小鬼を乗せた肩で大きく息をしていたが、怪我らしい怪我はなさそうな様子にセキはほっと胸を撫で下ろそうとして……
「……なんで、どうして大神さんがあんなにふらふらしているんですか……?」
ずいぶんと殴られたのか? じっと直立することが難しいようで、バランスを取るようにぐらりぐらりと左右に大きく巨体が揺れている。
「な、何があったんですか⁉」
「duelo de silentoを 行っております」
「そんなの聞いたよ!」
明らかに普通じゃない様子だと言うのにどうして誰も止めないのか訳が分からず、セキは泣き出しそうな声で「大神さん!」と叫ぶ。
「なんでっなんで大神さんが王様と戦ってんの⁉ オ……オメガを取り合うってなんだよ!」
散々叫んだと言うのに、大神は今初めて気づいたのかはっと肩を揺らしてセキへと振り返った。
とく と酒を注がれ、指で飲むように促されては無下にもできず、大神は再びグラスに口をつける。
喉に絡まるようなとろりとした感覚と甘い匂い、それとは相反する高いアルコールに酒を飲みなれた大神でも眉をしかめそうになった。
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